ライフスタイル企画

2025.09.18

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.24

コミュニケーションのヒントが見つかる3冊

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記録的な猛暑といわれた夏をようやく乗り越え、仕事への集中力が高まるこの時期。職場でのコミュニケーションを見直すことで、さらにパフォーマンスが向上するだろう。そんなコミュニケーションのヒントが見つかる3冊をご紹介。適切な関わり方がわからず悩んでいる相手がいる人も、ちょっと距離をおいて本を手にしてみると、また違う相手の面が見えてくるかもしれない。

電話恐怖症

電話恐怖症 大野萌子著 朝日新書
(924円)

かつてはビジネスコミュニケーションの主軸でもあった「電話」が今、仕事を阻む要因になりつつある。「着信音が鳴ると動悸がする」「電話を人に聞かれるのが嫌」など、近年増えているという「電話恐怖症」。身の回りにいる、あるいは自分自身がまさにそう、という人も少なくないだろう。家の電話に家族みんなの電話がかかり、オフィスも代表電話だった時代が去り、電話がパーソナルなものになったばかりでなく、通話機能を使うことも激減した今。電話=悪い知らせか緊急事態というケースが多く、サイレンのように聞こえてしまうのかもしれない。2015年ごろから入社1年未満で会社を辞める人の理由に「電話」が挙げられるようになり、この傾向は欧米でも進んでいるという。
本書では電話が苦手な人がどのような心情なのか、その背景にどんなトラウマや問題を抱えているのかという考察とともに、電話が怖くてたまらない人のための具体的なアドバイス、クレーマーや勧誘など厄介な相手への対処法、さらに電話でよい成果を上げるためのヒントも紹介している。なんと最後には「電話恐怖症でもいい」という新たな提案まで! 電話が苦手な人も「今どき電話なんて」と開き直ることなく、身の回りに電話が苦手な人がいる人も「ダメなやつだ」と切り捨てるのではなく、お互いに次なる一歩を踏み出せるような一冊だ。

「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方

「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方 川添愛著 KADOKAWA
(1,760円)

コミュニケーションがうまくいかないと感じる時、それは多くの場合「“自分の”伝えたいものが“相手に”正しく伝わらない」と感じる時ではないだろうか。それはそもそも自分が正しい、あるいは不変で、それを相手が理解すべきだという前提に立っているとも言える。これでは通じ合えるはずもなさそうだが、これが世の実態だろう。
さて本書はそんな社会の中で、少しでも人に「わかってもらう」ための思考と手法が網羅されている。それは言語学者にして作家として活躍する著者が、「たいしてわかってもらえない人間」から「そこそこわかってもらえる人間」に至るまでの試行錯誤の道のりで得た財産だ。
第一章では「人にわかってもらう」とはどういうことか、その前提を説いたうえで、第二章では「聞いてもらう」ために大切な5つの要素を解説。そのうえで「わかってもらう」ためのステップに続くが、それも「質問」「連絡・依頼・指示」「説明」「意見」「感覚・感情」など、対象別に注意すべきポイントや具体的なテクニックが並ぶ。いずれも誰もが「伝わらずに歯がゆい思いをした」経験があるようなシーンばかり。それを自身の失敗談も織り交ぜながら、手とり足とり教えてくれる。
相手をコントロールするのでも、自分を押さえつけるのでもなく、あと一歩思いを届けるためのこれらの方法は、人に対しても自分に対しても、もっと温かく、やさしくなれそうだ。

「人間関係」は性格と相性が9割 1000万人の新ディグラム診断

「人間関係」は性格と相性が9割 1000万人の新ディグラム診断 木原誠太郎著 プレジデント社
(1,540円)

さて3冊目は、楽しくコミュニケーションを向上させるための一冊。コミュニケーションは相手あってのことだから、その答えもひとつではないはず。本書は著者の編み出した「新ディグラム診断」に基づき、人の性格を9つのタイプに分類、それぞれのタイプがどんな性格なのか、そのタイプと付き合うには何を心がければいいのかを解説している。
タイプを知るには20の質問に答える必要があり、この質問に答えてもらうところまでこぎつけなくては相手のタイプを正確に把握はできないが、社内や家庭内など、さり気なくみんなで取り組む機会を作れるといいだろう。9つのタイプは「賢者系」「慎重系」「楽天系」「職人系」「豪快系」「検診系」「謙虚系」「冷静系」「直感系」に分かれる。この項目を見ただけで「あの人はきっとこのタイプだろう」と見当がつけば充分。ぜひそのページを読み込んでみてほしい。自分の価値観や行動規範とは随分違うことが、そのタイプの人の正義として書かれているのだ。
帯に「困ったあの人とうまくいかないのはあなたのせいではない」とあるが、まさに「あなた」のせいでもなく「あの人」のせいでもない。それぞれに言い分があり、大切にしているものがあるということを知るだけでも、関係性が大きく変わりそうだ。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティングも行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。最近ピアノを習い始めた。

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