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2025.11.13

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.26

読書の秋の解像度を高める! 「言葉」の魅力に迫る本

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秋の夜長に読書のひと時を。新しい知識を身につけたり、物語に身を委ねて非日常的な気分を味わったりと、文章を読むことにはさまざまな効用があるが、今回はそんな「文章」「言葉」そのものについて考える3冊をご紹介。毎日何気なく読み書きしている言葉の見え方が、変わってくるかもしれない!

パンチラインの言語学

パンチラインの言語学 川添愛著 朝日新聞出版
(1,760円)

「名台詞=パンチライン」はなぜ心に残るのか? 言語学者の著者がその謎に迫る『Web TRIPPER』の連載をまとめたもの。国内外の漫画、ドラマ、映画からセレクトした名セリフを、言語学の視点から解析する。とはいえ自称天邪鬼な性質をもつ著者。選ぶ作品もセリフも、誰もが「ああ、アレね」と思い当たるものとは言い難い。ともあれ、作品の概要やセリフの背景なども丁寧に説明されているので、初見の作品でも十分楽しめるし、むしろ隠れ名作と出合うガイドブックとしても活用できる。読者ターゲットに想定されているのは50代とのことで、『ガンダム』『タッチ』『パルプ・フィクション』などが登場し、若者世代にとっては中高年の先輩や上司のエンタメ体験を知る機会になるかもしれない!
さて、ここで著者が目をつけた「パンチライン」に対して、言語学の講義が加わる。たとえば映画『テッド』のセリフ「フラッシュ・ゴードンが来てる」に対して、換喩(メトニミー)という手法を学ぶことができる。日本政府のことを「永田町」と呼ぶのも同様だ、といった分かりやすい説明も。「エンタメ8割、言語学2割」と帯に打ってあるように、かなり楽しく読みながらちょっと小話になるような解釈が身につくのがこの一冊だ。
なお、本書中で原稿に対する校正者からのマニアックな赤字についても触れられていて、次に紹介する本『ことばの番人』とあわせて読むとさらに面白い。

ことばの番人

ことばの番人 高橋秀実著 集英社インターナショナル
(1,980円)

ネットメディア、SNSの時代を迎えた今、四六時中膨大な文章が書かれ、おそらくその多くは校正者の目を通ることなく社会に発信されている。一方、先に紹介した『パンチラインの言語学』に取り上げられるような名言は、世に出るまでに、多くの人の手と目を介している。本書はそんな「校正」について、ノンフィクション作家の著者が迫る。「てにをは」の使い方や名詞や数字の正確さはもちろん、自らの知識や常識を疑い、自らの目を疑いながら「正しさ」を求めてひたすら辞書を引き、出典を辿る校正者達。伝説的校正者・境田稔信さんの家には、辞書だけで7,000点以上あるという。またベテラン校正者の小駒勝美さん曰く、日本語は世界的にも珍しい「標準表記」「正書法」がない言語だそう。そしてそれゆえ「間違いは絶対に起こる」という。世の中が動くにつれて言葉も変化し続けるため、テキストを完璧に正しく保つのは不可能なのだ。さらに日本国憲法の校正、医薬品の表示の校正など、「あってはならない」はずの誤りにまつわる秘密を解き明かし、最後に自動校正システムやAIチェックの「仕事」にも迫る。
日本語の奥深さを感じるとともに「正しさとは何か?」という哲学的な問いも浮かぶ本書。さて、企画書やレジュメを提出する前に、ぜひ本書の校正者達の言葉を思い出し、もう一度読み返してみよう。「間違いは絶対に起こる」のだから。

「人生で大切なことに気づく」ための文章術 自分のことを書いてみる

「人生で大切なことに気づく」ための文章術 自分のことを書いてみる 岸本葉子著 アスコム
(1,595円)

最後に紹介するのは、自ら文章を「書く」という提案。今やSNSやブログなどで自分の経験や思いを書いて発信する機会は増えているが、本書で紹介するのはもう少しまとまった、「自伝」を書くようなイメージだ。自伝なんて名の通った人が書くもの、と思いがちだが、どんな人でも書く価値がある、と著者は言う。
非常に実践的な仕立てになっていて、第一章では記憶を掘り起こし、第二章では軸を決め、それに沿って10代、20代、と年代ごとに思い出を書き出していく。いよいよ文章にとりかかる第三章では読み手の立場に立って、「情景が目に浮かぶような文章」「嫌味にならない表現」などのテクニックとともに、「気分が乗らない時」「パソコンが苦手な人」などのお悩み解決案も提示。第四章ではさらに、ネガティブなことを書く時の手法や心構えを紹介。最終章では改めて書くことの意義や、自費出版も含め「書いたものをどうするか」についてのアドバイスまで。ところどころにワークシートも用意されていて、これに従って作業を進めれば、無理なく1冊の本が書けるかも。本にならないまでも、人生の棚卸しをし、自分の言葉で追体験することによって、改めて人生の意義を感じたり、永年胸に引っかかっていたわだかまりが氷解するなど、一歩前に踏み出せることは間違いない。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティングも行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。最近ピアノを習い始めた。

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