人間の力が及ばない世界で起こるからこそ、魅せられる神秘の自然現象。たとえば身近なところでいえば、今の時期、日没後の空を美しく彩る残照もそのひとつだ。オレンジ、ピンク、グレーが描くグラデーションは、人々の足を止めるほど、ドラマティックに空を染める。ただし、時間はほんの数分。二度と同じ景色を眺めることはできない儚さもまた、その美しさを際立たせる。では、そんな日常に転がる “奇跡の一瞬”の先にある、非日常世界の“奇跡の一瞬”とは。
【山梨県】神聖で静かな一瞬。美しく光輝く『ダイヤモンド富士』
桜、ラベンダー、ネモフィラといった花々から茶畑、馬や牛、工場夜景まで。どんなシーンも一瞬にしてフォトジェニックに変える富士山。四季折々で変わるその姿もドラマティックゆえ、年間を通じて写真愛好家が“奇跡の一瞬”を狙う。
写真提供:やまなし観光推進機構
均整の取れた円錐形、独立峰としてそびえる孤高の存在感は唯一無二。霊峰として古くから信仰の対象とされてきたことも、その神秘性を物語る。
そんな富士山の“奇跡の一瞬”といえば、「ダイヤモンド富士」をおいて他にないだろう。
写真提供:山中湖観光協会
富士山の山頂中央部から太陽が昇り、ダイヤモンドリングのような輝きを見せるこの現象。冬至から夏至まで長い期間楽しむことができるうえ、鑑賞できるポイントが多いのが特徴だが、最もポピュラーなのは山中湖湖畔で見る「ダイヤモンド富士」だろう。
写真提供:山中湖観光協会
時間は15時30分~16時30分ごろ(季節や場所によって変動)。「平野湖畔」や「大池浜」など湖畔のほかに、「パノラマ台」や「花の都公園」など湖から少し離れたところまで、山中湖広域で見ることができる。
風のない穏やかな日であれば、湖面にダイヤモンド富士が映る「ダブルダイヤモンド富士」をレンズに収められることも。
見ることができる場所のガイドマップやなどは山中湖観光ガイドのHPを参考に。
【山形県】まるでモンスター!? 独特な形状で純白にそびえ立つ『蔵王の樹氷』
冬の蔵王の代名詞ともいえる「樹氷」がピークを迎えるのは1月~2月。
樹木全体を覆い尽くすほどの巨大な氷の造形物が銀世界に乱立するその光景は、異世界そのもの。まるでSFの世界に迷い込んだ錯覚を覚えるほどだ。
「樹氷」は、霧状になった氷点下の水滴(過冷却水滴)を含んだ季節風が、オオシラビソ(アオモリトドマツ)の木々にぶつかり、瞬間的に凍り付いたものの隙間に雪が入り、これを繰り返すことにより大きく成長。
迫力がありながらもモコモコとしたフォルムは、よくよく眺めると愛らしいモンスターのようにも思えてくる。
「蔵王の樹氷」の楽しみ方は、ロープウェイから、ウィンタースポーツを兼ねて、ライトアップを狙うなど、選択肢は複数あるが、定番はやはり「蔵王ロープウェイ」だ。
蔵王温泉の「蔵王山麓駅」から「地蔵山頂駅」までの道中、車窓に広がるのは360度の雪の世界。
シーズン中は「樹氷ライトアップ」が開催され、漆黒の闇の中に多彩なライトに照らし出された樹氷群が昼とはまた異なる迫力で迫ってくる。
ほかには蔵王ロープウェイから雪上車「ナイトクルーザー号」に乗り換え、樹氷を観賞する「樹氷幻想回廊ツアー」も。
何度訪れてもその度に、新しい驚きを与えてくれるに違いない。
【鳥取県】砂丘をキャンバスに砂と風が描くアート『風紋』
鳥取県の東部、鳥取市の日本海に南北約2.4km、東西約16kmに広がる日本最大級の海岸砂丘「鳥取砂丘」。国指定天然記念物であり、“一生に一度は訪れたい”と願う人も多い、絶景スポットだ。
写真では何度となく見て知った気になっていても、いざ訪れてみると、広大な砂地と日本海、空のコントラストが視界いっぱいに広がり、その大パノラマに圧倒される。
鳥取空港から車で約10分の距離というが信じられないほどだ。
丘の上からの景色のほかにも、ぜひ目に焼き付けたいのが“砂のさざ波” とも呼ばれる波状の模様だ。
砂がよく乾き、固まっていない状態で砂を動かすのに適度な風が吹くと形成されるといわれる「風紋」。そこに誰かの意思が働いていないのにもかかわらず、描き出される幾何学的な模様は、自然の神秘そのものだろう。
雨が降った後、風速毎秒12m以上の強い風が吹くと形成される「砂柱」も晩秋から早春にかけて見られることが多い現象だ。
よくよく見ると、何かの形に見えてきたり。あれこれ想像をふくらませながら歩くのも楽しい。多くの人の足跡でかき消される前、早朝に訪れることをおすすめする。
構成・文/一寸木芳枝