健康の大切さがますます注目される近年。パフォーマンスの高い仕事も、充実したプライベートも、すべては健康な心身あってこそ。今月は2026年を健やかに走り出すためのヒントとなる3冊を紹介する。
痛いところから見えるもの 頭木弘樹著 文藝春秋
(1,870円)
どこかが痛くて病院に行った際、「特に異状は見つかりませんでした」などと言われ、絶望したことはないだろうか。「対象外」の烙印を押され、自分が嘘つきかわがままのようにも感じられ、かつ痛みの解決策がないのだ。本書の帯には「痛いのは疲れる、そして孤独だ」とある。著者は大学3年生で突如、潰瘍性大腸炎という難病に。15年後には重ねて癒着性腸閉塞を繰り返し、これらの影響で突発性難聴や慢性蕁麻疹などを発症するようになったという、いわば痛みのプロ。そんな著者が「痛みについて」考察する。といっても彼の個人的な痛みを語るばかりではもちろんない。自身が体験し、また見聞きしてきた「痛み」というものについて、「文学」を通して解明を試みる。古今東西、たいへん多くの文学作品を引用し、「痛み」を哲学する。それは痛みの視点のコレクターのようでもあり、そしてその視点はどこまでも冷静。痛みは悪なのか、罪なのか、弱者なのか。「痛くないこと」は本当によいことなのか、強いことなのか。痛みは人を孤独にする一方で、結びつける力もある…。
「痛いところから見えるもの」というタイトルの通り、「痛み」の世界からしか見えないものを見極める挑戦ともいえる本書。そこからしか見えない輝きややさしさ、おかしさもある。「痛み」に対して新たな景色を見せてくれる。
筋肉はすごい 健康長寿を支えるマイオカイン 青井渉著 中央公論新社
(980円)
健康維持のためには運動が大事、という話は誰もが聞いたことがあるだろう。贅肉が落ちる、血流がよくなる、姿勢がよくなる、はつらつとするなど、外見的な変化がまず頭に浮かぶ。しかし実は運動の効果はそれだけではない。筋肉はもう少し知的な働き方をしているのだ。そのひとつが本書で取り上げる「マイオカイン」。2003年にデンマークの運動免疫学者Bente Pedersonによって発見されたこの体内成分は、筋細胞から分泌されるタンパク質の一種で、現在までに50個以上が報告されている。これが代謝の活性化、筋肥大などばかりでなく、がんを予防したり、記憶や感情を司る脳の海馬の神経を保護し、学習能力や認知機能の向上、うつの改善などにも関与すると考えられているのだ。また昨今「脳腸相関」といって、脳と腸が作用し合っているという考え方が定着しつつあるが、ここでは「筋腸相関」についても言及。腸の状態がよければ筋肉のエネルギー産生が上がり、逆に筋肉の状態がよくなれば腸内環境もよくなるのだという。最後に具体的な「健康づくりの10箇条」がまとめられているが、本書を読んだあとならその意味もいっそう納得感をもって理解できるはず。これまでなんとなく知っていた筋肉と健康の関係を、最新科学でひもとく一冊。
医者が教える疲れない人の脳 3つの脳内物質を増やせばいい 有田秀穂著 三笠書房
(1,540円)
健康というのは肉体のことばかりではない。メンタルの状態も臓器や筋肉と同様、ケアすべき大切な体の一部。ところが日本では「気合でがんばれ」とばかり、長らく後回しに放置されてきた傾向がある。その結果、文部科学省の疲労研究班の調査によると、日本人の60%がいつも疲れを感じていると報告されている。この疲労感に対して本書では医学的アプローチの意義を提唱。脳内物質の働きにフォーカスすることで、健全な心や幸福感が生まれる状態を目指す。
この鍵となるのが、「オキシトシン」「メラトニン」「セロトニン」。「セロトニン」は朝の目覚めをよくしたり、平常心を保ち、シャキッとした姿勢や表情を作る働きがあり、「オキシトシン」は癒やしや安心感を、「メラトニン」は心地よい休息をもたらすという。この3つの脳内物質の仕組みを解明し、分泌を促す方法を紹介し、とくにこの3つのすべてに関わる「快眠」へのアプローチを詳しく解説する。
ストレスやうつ、不眠、倦怠感、意欲低下といった状況を抱えているとき、私達は仕事のトラブルや人間関係など、目の前の直接的な課題を解決させることに注力しがちだが、一歩引いて自分の「脳内物質」を整えるアプローチをすることで、案外風向きが変わるかもしれない。そんな気づきを与えてくれる一冊だ。
ライタープロフィール
文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。