ライフスタイル企画

2026.04.09

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.31

働き方の発想をアップデートする本

BOOK REVIEW メインビジュアル

新年度がスタートしたこの時期、新入社員を迎え入れたり、人事異動などで自分自身やチームに変化があった人もいるだろう。こんな時こそ、目の前のタスクから少し距離を置き、改めて働くことの意義や目的について俯瞰的に捉えてみるチャンス。そんな思考の伴走者にピッタリの3冊をピックアップ。

 歴史のなかの奇妙な仕事

歴史のなかの奇妙な仕事 ニコラ・メラ著 原書房
(2,970円)

「10〜20年後、私たちの仕事の半分はAIやロボットに取って代わられる」と発表されたのが2015年。あれから10年を経た今、確かに社会は変化しつつある。では今後「人がやらなくてはならない仕事」「人がやるべき仕事」とはなんだろう。
本書はサイエンスライターの著者が膨大な文献をひもとき、古代ローマから近代までの、ヨーロッパを中心とした80の「消えた職業」を紹介している。吸血鬼ハンター、目覚まし屋、サイコロ飲み…命を落としたり健康に重大な被害を及ぼしたりするリスクのあるものも多い。6つの章に分類されていて、章立ては「汚れ仕事」「信仰にまつわる仕事」「無分別な科学」「地味でつらい仕事をする人たち」「恐怖の報酬」「オーバーワーク」とある。それぞれの職業を読めば、その時代に人の命がどのように扱われていたか、どんな衛生観念を持っていたかなどがわかる。現代に生まれてよかった、と思うかもしれない。しかし著者は現代を礼賛することを目的とはしていない。仕事のストレスや長時間労働による健康被害は近年むしろ増えている印象さえある。全ての人が職業を選ぶことなく狩猟・採集をしていたいにしえの時代から、農業が始まり、領土と農民の関係が生まれ、産業革命が始まり…といった社会構造の変化のなかで、「仕事」の意味はどのように変わってきたのか。このことを改めて見つめ直すことで、この先の未来に私たちがどう仕事と関わっていくべきなのか、そのヒントが得られるかもしれない。

人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み

人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと 仕事にすべてを奪われないために知っておきたい能力主義という社会の仕組み 勅使川原真衣著 KADOKAWA
(1,705円)

「仕事で成功したい」「自分にしかできない仕事がしたい」「成長できる環境で働きたい」。そんな言葉を多く耳にする。悪いことではなさそうだ。いや、当然いいことだろう? と思ってしまう私たちに、本書は一石を投じる。組織開発コンサルタントの著者は、長年にわたり社会全体が多様性とは逆行する「一元的な正しさ」に翻弄されていることを危惧し、「競争ではなく共創する社会」を目指している。本書では「うまくやれる人が成功する」といった漠然とした価値観が広まる社会で、誰もが闇雲な努力を続けなくてはいけないのか?という疑問をもとに、「成功」をひもとく。
成功とは何なのか。成功者は増えるのか。逆に失敗とは何なのか。成長とは何なのか。筆者は問いを投げ続ける。
広辞苑で「成功」を引き、その定義を疑い、「成功者」とされる人やForbesの「富豪ランキング」、また「成功哲学」のベストセラー本に共通する成功の法則を求め、現代の「成功」とは何かを問う。最終章で著者は「ポスト成功哲学」について、「皆が心穏やかに生を全うするという社会システムの成功」を掲げ、そのために企業が、学校が、そして個人ができることを提案する。その語り口は率直で、そしてわかりやすい。私たちの「向上心」は、何かに踊らされているものではないか、自分を自分で苦しめているだけのものではないか、と一度疑ってみてもいいのかもしれない。

建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」

建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」 谷尻誠著 三笠書房
(1,980円)

最後に取り上げるのは建築家として国内外で活躍し、また経営者として、SNSなどでもその仕事観を発信している著者が、10代の息子に向けて書いた、生き方、働き方の指南書だ。「生き方」「働き方」「お金」「人間関係」「自分らしさ」という、誰にとっても一生向き合っていくテーマについて、現在の地点から伝えられることを、賢明に、ていねいに語る。学歴もなく、大手設計事務所などでの経験もないことをコンプレックスとして抱えていた若い頃のこと、身の丈に合わない高額な時計をローンで買って失敗したことなど、過去の自らの経験を、成功例も失敗例も同じように材料として取り上げながら、「自分で考え、自分で選択し、自分で経験し、自分で納得すること」の大切さを教えてくれる。
働き方の項目ではクライアントとのコミュニケーションの取り方や社内の人との関わり方、お金の項目では利回りを見据えた借り入れについてなど、かなり具体的な内容も。いずれにせよその語り口は正解を提示したり、行動を押しつけるようなものではなく、あくまで読み手に考える余白を残している。
若手だけでなく、キャリアの転換期にある人や日々の仕事で悩みを抱えている人、一歩前に踏み出したい人など、あらゆる人の毎日に寄り添うような一冊だ。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。


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