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2026.06.11

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol.33

自分を深く知る本

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雨の日が続き、外へ向かう気持ちも少し鈍りがちな季節。こんなときこそ、「自分自身と向き合う時間」をもつチャンスかもしれない。物語の登場人物に共感したり、誰かの言葉に背中を押されたりしながら、自分と対話をしてみてはどうだろう。そんな梅雨どきの読書にぴったりの3冊を紹介する。

君の不在の夜を歩く

君の不在の夜を歩く
窪美澄著 新潮社(1,980円)

〈菜乃子が死んだってよ〉。5月の連休の終わりが近づいたある日の深夜、健太からの一通のLINEが、沙耶のもとに届く。健太、菜乃子、沙耶、菜乃子の夫であった達也、そして倫子の5人は埼玉の高校時代の同級生。いつもともに行動していた5人は、40歳を目前に迎えた今もLINEグループでつながり、時々連絡を取り合っていた。もともとメンタルが不安定であった美しい菜乃子が自ら命を絶ったのをきっかけに、4人はそれぞれの人生を振り返り、傷つき、また新たな一歩を踏み出す。新興宗教二世としての苦しみ、伝えられなかった愛、嫉妬、野心、コンプレックス…誰かの「不在」を抱えたそれぞれの物語を描く連作短編集。大切な身近な人を失ったとき、私達は「何のために生きるのか」について考える。自分の命が誰かにとってどんな意味があるのか。後悔なく生きるとはどういうことか。思い出にすがる夜もあれば、新しい一歩へ向かう決意の朝もある。その揺れ動く感情が著者独特の繊細な筆致で描かれる。忙しい毎日のなかで見て見ぬふりをしてきた未整理の感情に、そっと光を当てる。雨音のするなか、私達自身もこの5人のひとりとなって、自分の心の奥にある思いをごまかさずに受け止めるひとときがもてるかもしれない。

今日も演じてます 月と文社編

今日も演じてます 月と文社編
月と文社(2,200円)

「ちゃんとした大人」「頼れる上司」「明るい部下」「やさしいお母さん」…社会でも家庭でも、私達は日々何かの役割やキャラクターを演じている。SNSや個人発信が一般化した今、その傾向はますます進み、何も演じない素の自分でいる時間などほとんどない、という人も少なくないのかもしれない。一方で、日々演じていながら、演じることに違和感や苦しみを感じている人もいる。本書はそんな8人を対象に行ったインタビュー集。「陰キャ」「良き母」「サラリーマン」「アイドル」「できる人」「道化」・・・。仮名にしてあり、それでも記事にできなかった内容もあるというが、その語りは赤裸々で率直だ。見ず知らずの誰かの物語でありながら、読み進めるほどに、インタビュイーのなかに自分自身を見るような思いが湧き上がるだろう。演じることは偽りなのか、社会のなかで生きていくうえで必要な知恵なのか、それとも演じていると思っている姿もまた自分自身なのか。演じることの意味を考えながら、自分自身に「どんな自分でありたいか」を問いかけたくなる。肩書や役割を脱ぎ捨てた自分とは何か、自分らしさとは何かを考えてみよう。そしてまた、周りの人々もこんなふうに演じる苦しみを抱えていると思えば、少しやさしい気持ちで接することができそうだ。

アイデアの毎日 今日の一歩を、何より大切に。

アイデアの毎日 今日の一歩を、何より大切に。
松浦弥太郎著 三笠書房(1,650円)

最後に紹介するのは、エッセイストの松浦弥太郎氏による、日々を心地よく生きるための発想や習慣を綴った一冊。タイトルにある「アイデア」とは、奇抜な企画や仕事術ではない。朝の過ごし方を変える、人への言葉遣いを少していねいにする、迷ったときは小さく試してみる、といった暮らしの小さな工夫だ。人生に行き詰まり、うまく前に進めなくなったときこそ必要なのは、大きな答えや派手な成功ではなく、日々を少しだけ前に進めるこんなささやかな一歩だと、著者は語る。
154のそれぞれの項目は、目新しいことではないと感じるかもしれない。「新しい人に会いに行く」「手紙を書こう」「いつも目標を」「水を飲む」「人を楽しませましょう」…。今さら分かりきっていること、と思うかもしれない。でもいざ振り返ってみるとできているだろうか? 最後に手紙を書いたのはいつ? 意識的に目の前の人を「楽しませよう」と思えている? そう問うと、何ひとつできていないかもしれない、と気づく。私達は日々忙しさや情報過多な生活に流され、仕事も人間関係も右から左へとコマを進めることにばかり躍起になって、ひとつひとつの物事、ひとつひとつの感覚とていねいに向き合い、意識的に何かを選び、主体的に行動することを怠っていたのではないか。
真ん中に自分がいて、何をどう感じ、どう捉え、どんな選択をするか。その先に「自分らしい幸せな人生」があると、著者は教えてくれる。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。


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