ボーナスが入ったり、夏のイベントの計画を立てたりと、お金の出入りが華やかになりがちなこの時期。一方で戦争や災害などさまざまな問題が、日用品の価格にも影響し、暮らし方の見直しを迫られている方もいることだろう。そんな今、自分自身のお金との向き合い方を改めて考えるヒントになる3冊を紹介する。
お金と宗教の歴史 大愚元勝著 東洋経済新報社(2,200円)
人はなぜ「お金教」に入信してしまうのか? 住職であり、YouTubeでのお悩み相談が人気の著者のもとに届くお悩みの多くも「お金問題」だという。本書は「お金」と「宗教」という一見遠い存在に思える二つを、「歴史」という視点でつなぎ直すことで、「なぜ私たちはお金に振り回されるのか」を解き明かす。
歴史を理解するうえで重要なのは「お金の流れを追うこと」と著者。歴史は往々にして勝者の視点で書かれるが、お金の流れは嘘をつかないからだという。本書では、宗教、お金、戦争という三つが複雑に絡み合いながら人類史を形づくってきた過程を追う。農耕によって富が生まれ、富が争いを生み、それを統治するために宗教が利用される――そんな壮大な歴史の構造が、明快な言葉で語られる。
その歴史は次第に現代に近づき、最後には今まさに歴史を刻んでいる私たち一人一人へ問いかけられる。「コスパ」を重視し、仕事の価値もものの価値も時間の価値もお金に換算し、減っては不安になり、増えては欲をかいている私達は、我知らずお金教に入信しているのだという。
本書の締めくくりで語られる仏教の「少欲(しょうよく)知(ち)足(そく)」という考え方が、ずっしりと響く。多くを求めすぎず、足るを知ること。「お金を増やす方法」ではなく、「お金に支配されない心のもち方」こそが、今私達がもつべき知恵なのかもしれない。
池上彰のマネーはどうなる? 池上 彰著 文春新書(1,100円)
投資をしている人ならトランプ氏のひと言で資産が乱高下、そうでなくともおやつからガソリンまで物価高はとどまるところを知らず、世界中のどんなニュースも「対岸の火事」とは言えなくなった昨今。けれどその全貌が見えず、何にどう備え、自分はどんな選択をすべきかわからず不安を抱えている人も多いだろう。そんな人々に向け、世界情勢をひもときながら私達のお金とのつながりを「基礎の基礎から」教えてくれるのが本書。
日本経済から始まり、アメリカ、中国、そして石油を取り巻く世界の動きへと視点を移しながら「今、世界で起きていること」を見つめていく。本書を読んでいると、お金はまるでシーソーのように、どこかの国が良くなれば他のどこかの国が悪くなり、誰かが儲かれば誰かが苦しむ、というような仕組みになっていることがわかる。原油価格の変動は中東情勢と直結し、アメリカ大統領選は為替や株価に影響を与える。新NISAも日本政府の経済政策と深く関わっている。だからこそ、著者は「世界や社会の仕組みを知ること」を熱心に伝える。表面的、一時的な変化に反応するのではなく、その裏にある為政者の狙いはどこにあるのか、そこに思いを馳せることで、お金との向き合い方も、漠然とした不安から主体的な判断へと変わってくるのではないだろうか。お金を知り、世界を知ることのできる一冊だ。
アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか? モーガン・ハウセル著 ダイヤモンド社(1,980円)
政府が副業を推進し、またNISAやiDecoなどでの資産形成を推奨する時代。かつてよりずっと自分なりの財テクを考える人は増えている。そんななか本書ではお金の増やし方ではなく「使い方」について考える。しかもそれは「アート」なのだ。著者は、お金を使うことを単なる「消費」ではなく、自分らしい人生を選択する道具として捉え直していく。
ビジネスで大成功した富豪、代々受け継いだお金をもつ一族、見栄が捨てられずに命を落とした人、難破した船から救出された人…。さまざまな「お金の使い方」の事例やデータを通して、幸せな人生とは何かを考える。そのうちに読み手は、「では私の人生に必要なものはなんだろうか? そのためにお金をどんなふうに使うべきだろうか?」と自問することになる。
とはいえ、お金というわかりやすい指標に比べ、人生の豊かな時間や、人を愛し愛されること、生きる喜びといったものは、千差万別だし、数値化できるものでもない。そのせいで私達は、本来もっと大切にすべきものをないがしろにしてまで、お金を過度に使ったり、極端に節約することにふけってしまうのだ。お金と適切な関係をもつのは、実に難しい。
投資術も節約術も必要ない。ただ自分を知り、自分の価値観を軸に人生を選択することが大事だと、本書は教えてくれる。さあ、お金に使われずお金を使いこなす、自分らしい人生を目指そう。
ライタープロフィール
文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。