ライフスタイル企画

2026.08.20

本を読めば「今」が見えてくる――BOOK REVIEW Vol35

持続可能な社会を考える本

持続可能な社会を考える本

もはや枕詞としてあらゆる場面で使われるようになった「持続可能な社会」。一方であまりにも壮大なテーマに、今私達がどんな問題に直面し、どれほどの危機レベルで、どんな対策を打つべきなのか、全貌を把握するのは難しい。そんななかでも少し遠い世界や一歩先の未来に目を向け、自分のこととして捉え直し、一つ一つの選択をアップデートすることが大切なのだろう。そんな気づきのきっかけとなる本を紹介する。

みずうみの満ちるまで 土形亜理著 早川書房

みずうみの満ちるまで 土形亜理著 早川書房(2,750円)

「持続可能な社会」と聞くと、世界や未来といった漠然とした広い景色が思い浮かぶ。しかし実際は、私達一人一人の「どう生きるか」という問いと切り離せないものだ。そのことを考えさせてくれるのが本書。第13回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作であり著者のデビュー作だ。


舞台は、気候変動と戦争で地球環境が大きく損なわれた未来。地表には難民があふれる一方、富裕層は仮想空間へ移住し、永遠に近い生命を手に入れている。そんな世界で、全財産を寄付し自ら死を選ぶ人々の最期を支えるのが、〈ヘヴンズ・ガーデン〉。主人公エルムは元難民としての過去を抱えながら、人生の終わりを迎える寄付者達に寄り添う。彼らとの対話を通して描かれるのは、「未来のために何を残せるか」という問い。
近年、気候変動をテーマにした「クライメート・フィクション」が注目されているが、本書はこうした要素を色濃くもちながらも、そのなかで人が誰かを思いやる気持ちや生きる意味といった人間の内面に迫る。そこにあるのは、喪失のなかにも希望を見出そうとする視点だ。
文明化、近代化を正義とし、便利さや豊かさを追い求めてきた私達。しかしその先の未来は本当に幸福だろうか。自分がどんな未来を望み、どんな選択を重ねたいのか、静かに考えさせられる。

いのちの未来 2075 人間はロボットになり、ロボットは人間になる 大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちの未来」クリエイティブチーム編 日経BP

いのちの未来 2075 人間はロボットになり、ロボットは人間になる 大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのちの未来」クリエイティブチーム編 日経BP(2,750円)

AIやロボット技術の進化は、私達の暮らしをどこまで変えるのだろう。本書は、昨年大盛況のうちに終えた大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」の思想をもとに、50年後の世界を描いた未来予測の本だ。


中心となるのはパビリオンのプロデューサーでロボット学者の石黒浩氏。AIやロボットの技術がさらに発展したとき、人間はどのような進化を遂げるのかを問う。寿命はどこまで延びるのか。AIは人間のパートナーになるのか。人間とロボットの境界は。学習や労働の概念はどのようになるのか。生と死に対する価値観はどうなるのか…。
後半では実際のパビリオンの紹介に加え、協賛企業の若手メンバーと重ねてきたミーティングの実録、そしてその結果考え出された未来のプロダクトを紹介する。テーマは「街と人の未来」「移動の未来」「住まいと暮らしの未来」「健康の未来」「学びの未来」「ヘルスケアの未来」「生涯設計の未来」。どの切り口も気になるものばかりで、日々の商品やサービスのアイデアのヒントにもなりそうだ。
超人気パビリオンで入館できなかった人も多いはずだが、本書はパビリオンを訪れていない人も十分満喫できる仕立て。350ページ超のボリュームながら、専門用語を使うことなく、語りかけるように臨場感をもって書かれ、読み終えた頃にはパビリオンのプロジェクトメンバーの議論に参加していたような気分になるほど。自分自身が当事者として未来をつくる。そんなマインドセットが備わる一冊だ。

リジェネラティブデザイン――人が関わるほど自然も再生する暮らし、ビジネス、社会のあり方を求めて greenz.jp著 英治出版

リジェネラティブデザイン――人が関わるほど自然も再生する暮らし、ビジネス、社会のあり方を求めて greenz.jp著 英治出版(2,970円)

「サステナブル」という言葉はすっかり定着したが、近年、その先にある「リジェネラティブ(再生)」という手法が注目されている。サステナブルが「環境負荷をゼロにする」発想だったのに対し、リジェネラティブは環境に対してプラスのインパクトを目指すもの。


本書はその実践方法として、ウェブマガジン「greenz.jp」での取材連載から22の実例をピックアップしている。各事例はgreenz.jpが考えるキーワード「見えないものに目を向ける」「多様な関係性をつくる」「すでにある資源をいかす」「続くための仕組みをつくる」「徹底的に責任をもつ」「循環の中に位置づける」「すこやかさでつなげる」の7つに分類して紹介。もちろんすべてがつながっているのだが、こうしてキーワードに注目することで視点がくっきりと見えてくる。認証制度をつくり地球を救う事業を回すパタゴニア、海底を耕し、森づくりを始めた漁師達、「半径2km圏での栄養循環」を叶えるバッグ型コンポスト。登場するのは、環境意識が強かった人ばかりではない。自分のキャリア、日々の生活や収入、できることとできないこと、周囲の人との関係性。こうした現実と分断することなく綴られているからこそ、知人の話を聞くようなリアリティをもって読み進めることができる。そしてまた、リジェネラティブとは、何かを我慢することではなく、豊かで可能性に満ちた未来をつくり出すことなのだと励まされるはず。自らも次の一歩を考えたくなる、ポジティブな一冊だ。

ライタープロフィール

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文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。


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