9月21日は敬老の日。身の回りの諸先輩を敬うとともに、「老い」について考える日としてみたい。人生100年時代。現役引退後は余生と呼ばれていた時代は過ぎ、大抵の人が人生の半分近くを高齢者として生きることになった。また両親や祖父母などの介護を抱える人も多いだろう。「老い」をどう生きるか、「老い」とどう生きるか。この機会にぜひ考えてみたい。
アウト老のすすめ みうらじゅん著 文藝春秋(1,540円)
老人になったからといって、人は急に道徳的になったり、達観したりはしない。高齢者になっても今までどおり、自由に楽しく生きる。そんな宣言のような本書。イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンとしてサブカル界を牽引してきた著者が提唱するのは、世間の常識からはみ出しながら、自分らしく年齢を重ねる「アウト老(ロー)」という生き方だ。提唱、とは言いすぎかもしれない。もっと緩やかに、枠にハマることのできない自らの日常を包み隠さず綴る。本書は『文藝春秋』の連載から95編をまとめたもの。
幼い頃や思春期の思い出から近年のエピソードまでユーモラスに語られる。そのなかには物忘れや体力の衰え、死を意識する場面もあるが、いずれも決して暗く語られることはない。失敗や情けなさも含めて、「年をとったからこそ面白い」と感じさせてくれる。そして何歳になろうが、相変わらず自分の好きなことを面白がり続けているのだ。「ああ、これでいいんだ」と気持ちが楽になる。
今、多くの人が恐れている老い。長生きもリスクとされ、健康に生きるための運動や睡眠や食事を選び、介護保険に入り、資産形成に励む人が増えている。しかし老後に待っているのはそんな不安要因ばかりではない。これから年齢を重ねるすべての人に、「こんな未来なら悪くない」と思わせてくれる。
腐芯 朝野にわ著 光文社(2,090円)
猛暑が続く夏、住宅街の空き家で高齢男性の遺体が発見された。死後数日が経過しているはずなのに、遺体は全く腐乱していない。熱中症による事故死と思われたが、刑事の竜胆一郎はそこに不可解さを感じる。被害者は家族の介護を受けていたのに、なぜ空き家で死んでいたのか。曖昧な証言、遺体に残された痕跡、息子夫婦の不自然な態度。捜査が進むにつれ、家族の内側に隠されていたものが浮かび上がっていく。そんななか、ある証拠物を機に、事件は思わぬ方向へと展開し…。
第18回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞した著者デビュー作となる本書。謎解きと並行して、介護する側とされる側、それぞれの心の揺らぎが少しずつ明らかになる。ここに描かれているのはひとつの事件だけではない。家族の負担や孤立といった、介護そのものが抱える現実でもあるのだ。老いは本人だけの問題にとどまらず、家族関係や暮らし、地域とのつながりまで静かに変えていく。しかしその多くはそれぞれの家庭のなかに隠された「ミステリー」になっているのではないか。すれ違いや疲労、遠慮、あきらめが重なったとき、その先にあるものは…。誰にでも起こり得ることかもしれない、という思いがよぎる。「介護はまだ先」と思っている人ほど、それが決して他人事ではないことに気づかされるはずだ。
The Gift of Aging じょうずに老いる エリザベス・エクストロム著 KADOKAWA(2,200円)
超高齢化社会に突入した今、私たちはその「老後」の長い時間をどう過ごせばよいのか。本書は、老年医学の専門医と老化を研究する生物学者が、最新の医学研究と超高齢者へのインタビューをもとに、80代、90代、100歳という人生後半の姿をひもときながら、年を重ねても自分らしく暮らすためのヒントを探る。
認知症、転倒、フレイル、経済的な不安、社会とのつながりの減少。老後の現実に対して具体的なアドバイスも多く綴られているが、本書が重視しているのは「レジリエンス(困難にしなやかに適応し、立ち直る力)」の大切さ。「老い」を下り坂のベクトルで見るのではなく、変化や困難に対して、新しい形で適応していくプロセスと捉えていることだ。体力や記憶力が以前と同じでなくても、そこに固執し抗うのではなく、今の自分に選べるものを探し、必要な助けを受け入れ、自分なりの役割や楽しみを見いだし、人とのつながりを保ちながら暮らしていく。こうした積み重ねが、幸福な老後を育むのだと著者は教えてくれる。
老いはある日突然始まるものではない。「老いる」とは「生きる」ことそのものとも言える。仕事への向き合い方、健康とのつきあい方、人との関わり方。その一つ一つを少し意識することが、老後だけでなく、今を生きる時間までも豊かにしてくれる。そんな希望を与えてくれる一冊である。
ライタープロフィール
文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティング、講師活動も行う。かつてはトライアスリートだったが、最近の趣味は朗読とピアノ。