三菱のアート

2023.12.21

こんなにめでたい新春は12年に一度!

静嘉堂@丸の内で迎える「ハッピー龍イヤー!」

十二支のなかで唯一架空の生き物でありながら、吉祥の図柄や文様として扱われる「龍」。
2024年の干支にちなみ、静嘉堂文庫美術館が所蔵する〝龍作品〟が丸の内に集結する。
〝西洋のドラゴン〟は悪の根源的存在として扱われるが、〝東洋の龍〟はなぜ吉祥を表すのか?ひと月限りの展覧会「ハッピー龍イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~」をより楽しむために、龍にまつわる豆知識をお届けしよう。

●龍は動物の集合体!?

水中に棲み、雲に乗り、天を飛翔するという古代中国に発する想像上の動物で、その観念や造形は弥生時代には日本に伝播していたと思われる。奈良時代の養老4年(720年)に完成した『日本書紀』にも記載があるのだ。
いわく、古代中国人は自然現象に対する畏敬の念が強く、想像の聖獣「四霊」(龍、鳳凰、麒麟、亀)を尊んだとか。

「色絵団龍文陶板」有田窯 江戸・延宝年間(1673~81年) 静嘉堂文庫美術館蔵 

想像上の生物である龍だが、その姿はさまざまな動物の集合体だといわれている。上の「色絵団龍文陶板」を見ると、なるほどと思うだろう。
『日本国語大辞典』(小学館)によると、「想像上の動物。体は大蛇に似て、背に81の鱗があり、四足に各五本の指、頭には二本の角があり、顔が長く耳を持ち、口のあたりに長いひげがあり、喉下に逆さ鱗を有する。水に潜み、空を飛んで雲を起こし、雨を呼ぶ霊力があるとされる」とか。また、駱駝の頭に鹿の角、目は兎で牛の耳をもち、胴体は蛇で背は鯉のように硬い鱗で覆われ、4本の足には鷹のような鋭い爪が。西洋のドラゴンには羽があるが、中国の龍は羽がなくても空中を駆け、一直線に天に昇っていくらしい。

(左隻)

(右隻)

重要文化財 橋本雅邦「龍虎図屛風」 明治28年(1895年) 静嘉堂文庫美術館蔵

雲を呼び込んで雨を降らせる霊力をもつとされた龍は特別な存在で、さまざまな神話と結びつけられて信仰の対象にもなった。12・13世紀ごろから、暴風雨をひきおこして雨を降らす神「龍王」に見立てる例も。水神としての龍神が雷神信仰と結びつき、竜巻となって天に昇り、雨を降らすと考えられたようだ。
その逆に、竜巻や稲妻などの気象現象を龍の姿に見立て、天地を自在に往来する龍を、不老不死を実現する天上世界への乗り物とみなしたとも考えられる。下の「群仙図屛風」では、まさに乗り物として描かれている。

(左隻)

(右隻)

鈴木松年「群仙図屛風」 明治28年(1895年) 静嘉堂文庫美術館蔵

紹介した「龍虎図屛風」と「群仙図屛風」は、いずれも明治28年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会に出展した作品。〝東京と京都の日本画家による屛風絵競演〟という企画に橋本雅邦と鈴木松年も選ばれ、制作したもの。ふたつの屛風は「東西の好一対」として陳列室で特に話題になったとか。そしてこのプロジェクトにひと役買ったパトロンが、三菱第2代社長の岩崎彌之助だったのだ。明治28年といえば日清戦争で日本が勝利した翌年。戦勝祝いというムードもあって、勇ましい図様や吉祥図が好まれたのだろう。

●龍にも階級制度が!? 爪の数で持ち主がわかる

中国、なかでも清代(1616~1912年)には、皇帝や臣下の官服であった袍(ほう)の文様にも多く用いられた〝龍モチーフ〟だが、皇帝は5本、貴族は4本、庶民は3本と、爪の数で階級が表されていた。意匠によって、誰のためにつくられたものかわかるというわけ。
いっぽう日本では龍の表現によって身分や階級を表すということはなく、図柄として自由に楽しんだようだ。その表現はさまざまで、表情やポーズはバラエティに富む。空を駆け、波間から飛びあがったり、蛇のような長い体を活かして壺の耳や蓋のつまみ、水指の口になったり。吉祥モチーフであることに加えて変幻自在に描けるので、東洋では調度品や建物、美術品に多く用いられたのだろう。

「紺地龍〝寿山福海〟模様刺繍帳」 清時代・19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

絵画的な織柄が見事な清朝皇帝の袍(ほう)をほどき、170.2×93.3㎝の帳(とばり)につくり替えたもの。煎茶席の出入口に掛けて使用された。金糸による龍の鱗の表現に圧倒される。

三代目歌川豊国(国貞)・二代歌川広重画「長崎 円やま」(部分)
江戸時代・文久元年(1861年) 静嘉堂文庫美術館蔵

浮世絵は、その名の通り「浮世=当世」を描くもの。男女問わず髪型や着物の柄などの流行は即座に描かれて広まった。本作は、戯作者の柳亭種彦未完の長編作『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』をもとに、三代豊国(歌川国貞)と二代歌川広重が競作した錦絵。花魁(おいらん)の打掛に龍が描かれている。

「青花龍文大壺」大明嘉靖年製 銘 明・嘉靖年間(1522~66年)
静嘉堂文庫美術館蔵

総高60㎝超えの大型の蓋つき壺。胴や蓋の側面にはとぼけた表情に見える龍と、ともに描かれることが多い瑞雲(めでたいことの前兆として現れるとされる雲の文様)や、しぶきを上げる波がたっぷり描かれている。

「龍図透し鐔」 越前住記内作 銘 江戸時代・18~19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

刀の鐔(つば)をはじめとする武具の装飾にも龍が描かれることは多い。記内(きない)とは江戸時代に栄えた金工の一派。初代が近江から越前に移り、松平家の葵紋の鐔など多くの名作を残した。

「龍波濤文盒」 清時代・18~19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

直径35.6㎝の漆器の合子(ごうす)。蓋の上面に描かれているのは、咆哮し宝珠を追い求める3匹の五爪龍。荒々しい波や、側面の花紋などの表現も精緻。本展で初めて一対公開される。

●中国趣味の煎茶道具や千利休所持の茶入、もちろん曜変天目も!

抹茶も煎茶も中国から伝来したもの。静嘉堂文庫美術館の茶道具といえば国宝の「曜変天目(稲葉天目)」だが、本展覧会には龍文が用いられた茶道具や煎茶道具の調度品も展示される。
冒頭で紹介した「紺地龍〝寿山福海〟模様刺繍帳」に加えて注目したいのは、大名物茶入の「利休物相(りきゅうもっそう)」に付属する一対の螭龍(ちりょう)を彫った「堆黒螭龍文稜花盆(ついこくちりょうもんりょうかぼん)」。千利休が所持していた大名物の茶入をのせる盆として仙台藩主伊達家の依頼によって取り合わせたのは、大名茶人の小堀遠州とか。通常は組まれて展示されるために盆の文様はよく見えないが、今回の展覧会「ハッピー龍イヤー!」では別々に展示。螭龍も、ようやく日の目を見ることになる。

重要美術品「大名物 唐物茄子茶入 利休物相(木葉猿茄子)」 南宋~元時代・13~14世紀
「堆黒螭龍文稜花盆」 南宋時代・12~13世紀 
ともに静嘉堂文庫美術館蔵

「堆黒螭龍文稜花盆」に描かれた螭龍とは、まだ鱗が生えていない未熟な龍のこと。とぼけたような表情にも子供らしさが表れている。

●年初めの特別展は、展示にも新たな試みが…

静嘉堂@丸の内には、中央のホワイエを囲むように配された大小合わせて4つの展示室がある。昭和9年(1934年)竣工時の原形をほぼとどめているという貴重な建築遺産でもある明治生命館に、展示室を移して1年以上経った静嘉堂文庫美術館だが、今回は美しいレリーフなども見応えがあるホワイエが、展覧会の「龍」のテーマに合わせてダイナミックなバナーデザインで演出される。このホワイエだけでなく、本展覧会では展示室のほとんどが撮影自由なので、SNSへの画像や動画投稿も可能。昭和の建造物として初めて重要文化財に指定されたという明治生命館の建築美も味わいながら、ゆっくり楽しめるはずだ。

景徳鎮官窯「青花黄彩雲龍文盤」大清乾隆年製 銘 清・乾隆年間(1736~95年)
静嘉堂文庫美術館蔵

濃厚なコバルト顔料で龍や瑞雲、波濤文を表し、その背景を艶やかな黄釉で塗り込めて再焼成した、大変手の込んだ意匠の大盤。中央には宝珠に見立てた「寿」の文字も。ホワイエには本作を含めた3点の大型作品が展示される。

●2024年の〝美術館初詣〟は、龍尽くしの静嘉堂@丸の内へ!

東アジアの美術品に多く用いられた、吉祥文でもある龍モチーフ。絵画だけでなく、陶磁器や漆芸、金工、染織、織物など、多様な展開を見せている点も見どころだ。龍尽くしの展覧会は初めてという静嘉堂文庫美術館だが、「今までお披露目する機会がなかった作品も多数展示します。吉祥文である龍をモチーフとして使用している作品には、中国皇帝用に五爪龍を描くものなど、格別高級な美術品が含まれています。色や形、決めのポーズもさまざまに表現された龍を楽しんでください」と、本展を担当した主任学芸員の長谷川祥子さん。
開催は1月2日(火)から2月3日(土)までのひと月限定。1月29日(月)には展示室内で気兼ねなく会話できる「トークフリーデー」を設けるという初の試みも。当日の11時と14時からは、展示室での長谷川さんによる解説も予定されている(各回40分)。

龍尽くしの静嘉堂@丸の内へ出かけて、2024年の福をたっぷり呼び込もう!

美術館データ

東洋文庫ミュージアム

「ハッピー龍イヤー! ~絵画・工芸の龍を楽しむ~」

Celebrating the New Year with Dragon-Motif;
Art and Crafts Masterpieces
from the Seikado Collection

会場:静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)


2024年1月2日(火)~2月3日(土)
会期中休館日:1月9日(火)、15日(月)、22日(月)
開館時間:10時~17時(金曜日は18時閉館、入館は閉館の30分前まで)

入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※日時指定予約優先(当日券も販売)
※辰年生まれの方、また姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」の文字がある方は、同伴者も含めて本展の入館料を200円割引(入館時に生年月日や氏名を証明できるものをご提示ください。他の割引との併用はできません)



関連イベント:鼎談「辰年なのに…卯年快談!」
ゲストに老舗古美術商、株式会社繭山龍泉堂の川島公之氏(代表取締役)と、世界を代表するオークションハウス、クリスティーズ・ジャパンの山口桂氏(代表取締役社長)をお迎えし、本展担当学芸員の長谷川祥子も加わっての〝異業種で飛び跳ねている(?!)卯年生まれ〟の鼎談です。古美術品をめぐる世界の動向、価格のこと(!)、そしてそれぞれの仕事の魅力や苦労まで、大いに語ります。
2024年1月20日(土)14時~ 明治安田ホール丸の内(旧丸の内MY PLAZAホール/明治安田生命ビル低層棟4F) 詳細は静嘉堂文庫美術館ウェブサイトでお知らせいたします。


問い合わせ:☏ 050-5541-8600(ハローダイヤル)

ホームページ https://www.seikado.or.jp/

X(旧Twitter) @seikadomuseum

instagram:@seikado_bunko_artmuseum

割引クーポン

入場料200円割引券

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※2名様まで1回限り有効
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会期中の2024年2月3日(土)まで

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