世界的に貴重な史料を蒐集・公開するだけでなく、日本とアジア諸国、そしてアジアとヨーロッパの交流をひもとくことを大きな柱としている東洋文庫は、2024年11月に創立100周年を迎える。その周年記念の一環として1月27日から開催される展覧会「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア」を紹介しよう。
島国ニッポン、意外に柔軟だった!?
中東で生まれたキリスト教は、どのようにアジアへと伝えられたのか? まずはモンゴル帝国がヨーロッパ近隣にまで領域を広げたことにより、ヨーロッパから中国への陸路が確立される。しかしそれはあまりにも遠く、盗賊などに襲われるなどの危険に満ちた旅路。中国までたどり着けない宣教師や学者も多く、布教活動は一時頓挫する。
そして15世紀後半にはじまった大航海時代になると、喜望峰ルートの海路でのアジア進出が可能になる。まずはインドに入国するものの、同地は土着の信仰が強く、思うような布教ができなかったとか。
次にスポットライトが当たったのが日本だ。室町時代末期の1549年に、スペイン人の宣教師フランシスコ・ザビエルが日本にやって来る。「日本人は教養があって礼儀正しく、私たちの話もちゃんと聞いて理解してくれるぞ!」ということで、日本がキリスト教のアジア布教の足掛かりとなったのだ。
また、キリスト教の全能の神デウスと、日本の密教において本尊である大日如来が混同されたことから、「キリスト教というのは仏教の宗派のひとつ?」と受け入れた日本人も多かったとか。織田信長の時代は布教が進んだが、やがて排除の憂き目にあう。豊臣秀吉、徳川家康とキリスト教の弾圧は続き、表立っての布教は敵わず、江戸時代になると多くの宣教師らが日本国外へと追放されることになる。
下の「ドチリーナ・キリシタン」の図版に“NIPPONNOIESVS”(ニッポンノイエズス)と読める。本書はローマ字表記の日本語による、キリスト教の教義を12項目に分けて解説したもの。これを外国人宣教師が読んで聞かせれば「音」で伝わり、日本人もローマ字さえ読めれば解読できるというわけ。双方の歩み寄りがあってこその布教だったことの、ひとつの証としても貴重な書籍だ。
他のアジア諸国に残るキリスト教布教の足跡
たとえば、本展覧会における希少なカラーの展示品である「中国新地図帳」の扉絵(上図)からは、ヨーロッパのアジア観が見てとれる。上方に描かれているのは、イエズス会の紋章から放たれる光を鏡に反射させて火を灯す様子。「キリスト教によってアジアを照らす」という意味なのだとか。下方で天使が手にしているのはアジアの地図や地球儀。布教のターゲットを示しているのだ。中国の明・清代にイエズス会の宣教師たちがせっせと海を渡り、西洋の学問によって地図制作や天文観察をし、医療を発達させるなど、キリスト教の布教以外にも交流が行われたことを示す書籍も本展で多数展示される。
中国を訪れた宣教師は「この国になじまなければ布教は難しい」と思ったようだ。下図に描かれているように、宣教師はキリストの教えだけでなく科学知識を伝え、中国の習俗を取り入れて彼らの懐に入っていった。もしもザビエルがあの髪型ではなく、月代にちょんまげを結っていたら、日本での布教状況は変わっていただろうか?
創立100年イヤーにふさわしい東洋文庫ならではの展覧会
上は、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産として、世界遺産に登録されている長崎県の出津教会堂(しつきょうかいどう)の写真。本展覧会では、ザビエルによって我が国にもたらされたキリスト教のはじまりから、長崎や天草地方の潜伏キリシタン関連史料も紹介する。
東洋文庫の主要な研究テーマのひとつである東西交流史において、キリスト教の存在の大きさは計り知れない。キリスト教が入ってきたことで、アジアの社会や文化はどう変容していったのか。宣教師はキリスト教だけでなく、文化や物品、技術、学問など、さまざまなものの“旅する広報団”でもあったのだ。
歴史資料を蒐集、保存、公開するだけでなく、その研究が世界の東洋学に大きく貢献してきた東洋文庫。創立100周年を迎える2024年最初の展覧会「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア―」では、東洋文庫創立時から蒐集してきたアジアにおけるキリスト教布教関係の書物が70点ほど展示される。東洋文庫の本質に触れられる展覧会というわけだ。
美術館データ
「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア―」
会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)
会期:2024年1月27日(土)~5月12日(日)
会期中休館日:火曜日
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
入館料:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、高校生600円、中学生以下無料
問い合わせ:☏ 03・3942・0280
ホームページ http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/
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