100周年記念展の第2弾である本展でキリスト教の東西交流を感じたら、併設するレストラン「オリエント・カフェ」へもぜひ。単なる〝ミュージアム・カフェ〟ではない、三菱と深いかかわりをもつこの店のストーリーも紹介しよう。
展覧会「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア―」は5月12日(日)まで!
本展覧会については、1月18日配信の 『東洋文庫ミュージアムの真骨頂 企画展「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア―」へGO!』 で紹介しているので、ここでは前回紹介できなかった見どころをいくつかピックアップする。
まずは、日本を〝黄金の国ジパング〟と紹介していることでも知られる『東方見聞録』。東洋文庫が所蔵する下の展示書籍は1485年にアントワープで発刊されたもので、同タイトルのなかでは世界で3番目に古い刊行なのだとか。美しいレタリングが印象的で、内容は理解できなくても鑑賞を楽しむことはできるだろう。
この展覧会の展示物のほとんどはモノクロ印刷の書籍だが、美しい色彩と絵画的表現で目を引くのが、1655年刊行の『新地図帳』の扉絵。マルティノ・マルティニというイタリア出身のイエズス会士が、明末清初期(17世紀前後)の中国で布教活動を行う際に発表した中国の地図をまとめたものが『新地図帳』の11巻、『中国新地図帳』だ。その扉絵の図版は「キリスト教によってアジアを照らす」と示しているのだが、なるほど、目を引く色彩でその内容に誘っているのだろう。
画像で大きさはわかりにくいが、巨大で美しい聖書も必見だ。これは旧約聖書と新約聖書を1冊にまとめ、ドイツ語に訳したもの。純金による飾りや小口の意匠などの凝った装丁や大きさから、教会に備え付けられたものと考えられている。
東洋文庫ミュージアムは、受付を通るとまずは展覧会の関連展示を行うオリエントホールが。そこから階段を上がるとモリソン書庫だ。ここでは、東洋文庫の創設者である岩﨑久彌(三菱3代目社長)がオーストラリア出身のジョージ・アーネスト・モリソン博士から購入した、東アジアに関する書籍や絵画などおよそ2万4千点を展示している。「キリスト教交流史」展の開催中は〝漂泊の画家〟と呼ばれるジョージ・チネリーのスケッチ画の展示もあるので、こちらもぜひ鑑賞したい。
東洋文庫ミュージアムとともに誕生した「オリエント・カフェ」とは?
ミュージアム施設からレストランへと続くのは、アジアの多彩な言語で格言が記された「知恵の小径」。まもなく桜の時期を迎える庭園シーボルトガルテンを挟んで建つのが、東洋文庫の施設である「オリエント・カフェ」だ。ここは一般的なミュージアム・カフェとは一線を画す本格的な洋食レストラン。経営は乳製品などで知られる小岩井農場だが、その創設者のひとりが三菱2代目社長の岩崎彌之助であることをご存じだろうか。
明治5年、新橋から横浜まで日本初の鉄道を走らせたのを皮切りに、東海道新幹線や東北本線などの鉄道工事で指揮にあたったのが〝日本の鉄道の父〟といわれる井上勝(いのうえまさる)。近代化に不可欠な鉄道事業だが、それは自然を犠牲にすることでもあり、井上は長年悔恨の念を抱いていたという。そこで、岩手山の南麓に広がるやせた土地に大規模な農場をつくることを計画。日本鉄道会社の副社長だった小野義眞(おのぎしん)と、三菱2代目社長の岩崎彌之助の協力を得たことで井上の夢は実現、3人の姓の頭文字をとって命名された小岩井農場が明治24(1891)年に開設されたのだ。
水はけの悪い湿地帯なうえ、夏には冷たい風、冬には吹雪をもたらす西風が作物の生育を妨げていたため、まずは防風林の植林や土壌改良、排水確保などの基盤整備が数十年によって行われた。明治政府が力を入れていた農業の近代化も取り入れられたが経営は多難を極め、小岩井農場は井上から岩崎家へ引き継がれることに。三菱3代目社長の岩崎久彌のもと、新たな発展をしていく。
岩崎久彌が目標としたのは、日本人の体位向上のための畜産振興。繁殖用の家畜のブリーダー事業を主とし、エサとなる作物の耕作を従とする経営方針をとり、畜産事業を本格化させる。海外から優秀な種畜を輸入して品種改良を行い、全国に優秀な血統の牛を販売。さらには新鮮な牛乳と、それを用いた乳製品の事業も拡大する。こうして小岩井農場は、日本の酪農と乳業事業の発展に大きく貢献してきたのだ。
酪農、乳業、林業など、事業の多角化をはかってきた小岩井農場。そこから分離独立した小岩井乳業は、牛乳やバター、チーズなどで現在の私たちの生活に身近だが、もっとダイレクトに小岩井農場の美味を堪能できるのが、今回紹介する「オリエント・カフェ」だ。
ミュージアム・カフェから、小岩井農場や岩手県産の食材をしっかり味わう本格的なミュージアム・レストランへ転身!
2011年の東洋文庫ミュージアムの新設とともにオープンした「オリエント・カフェ」。当初は、展覧会鑑賞の前後の休憩に利用してもらうための気軽なカフェだったが、小岩井農場が経営するなら本格的な料理を食べたいという要望が多く、オープンからわずか半年で洋食レストランに転身。「安心・安全」という小岩井の企業理念は「オリエント・カフェ」でも受け継がれ、小岩井農場が誇る小岩井牛や乳製品、岩手県産の厳選された食材によるメニューのクオリティは、東洋文庫ミュージアムの学芸員も太鼓判を押す。
1日限定10食の文庫ランチや展覧会とのコラボメニューも!
「オリエント・カフェ」では、東洋文庫ミュージアムの展覧会とコラボしたメニューも。1月27日に始まった「キリスト教交流史」では写真のアクアパッツァを期間限定で提供。展覧会会期の後半では、新たなコラボメニューが登場する予定だ。東洋文庫のスタッフのアイデアも盛り込みつつ料理長らがひねり出す期間限定の料理も、東洋文庫ミュージアムを訪れる楽しみのひとつになるだろう。
食事を楽しみに展覧会へ…もあり!
「オリエント・カフェ」は、東洋文庫ミュージアム側が一面のガラス張り。店内からも望めるシーボルトガルテンには桜をはじめ、シーボルトが愛したアジサイなど季節ごとに花木が目を楽しませるだろう。
【オリエント・カフェ案内】
東京都文京区本駒込2-28-21 東洋文庫内
ランチタイム:11時30分~ラストオーダー14時30分
ティータイム:11時30分~17時
ディナータイム:17時~21時30分(ラストオーダー19時30分)
https://www.koiwaifarmdining.co.jp/brands/orientcafe/
※ランチタイムの予約は電話で前日までに、ディナータイムはHPよりオンラインでも予約可。
博物館データ
「キリスト教交流史―宣教師のみた日本、アジア―」
会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)
会期:2024年1月27日(土)~5月12日(日)
会期中休館日:火曜日
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
入館料:一般900円、65歳以上800円、大学生700円、高校生600円、中学生以下無料
問い合わせ:☏ 03・3942・0280
ホームページ http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/
X(旧Twitter)@toyobunko_m