三菱第三代社長の岩崎久彌が、東洋学の研究図書館として東洋文庫を設立したのが1924(大正13)年。100周年を迎えた2024年の12月末でいったん閉館し、施設のリニューアルをはかっていた東洋文庫ミュージアムが1月21日に再オープンした。より外へと開かれた施設と、リニューアル・オープン記念の展覧会「ニッポン再発見 ―異邦人のまなざし ―」の見どころを案内する。
表から館内の一部が見える!「Welcome」を感じるエントランス
研究図書館であると同時に、だれでも楽しめるミュージアムである東洋文庫。美術展めぐりを趣味にしている人の間でも、ツウ好みのミュージアムといってもいいだろう。今回のリニューアルでは、「外から館内の様子が見えるようになったので、以前より入りやすくなったと思います」と学芸員の篠木由喜さんが話すように、塀で覆われていた部分を開放、表の通りからも施設の一部がうかがえるようになった。近隣の日本庭園「六義園」訪問の際などにも、気軽に立ち寄れる雰囲気だ。
エントランス部分と奥がガラス張りという建物の構造はそのままだが、外からも見えるようになったことで入りやすさが格段に上がった印象だ。
ミュージアムショップと受付を過ぎると、まずは2階まで吹き抜けのオリエントホールという空間が。ここでは東洋文庫についての展示や、子ども向け図書の案内なども。中庭を挟んだ向かいには、東洋文庫の敷地内で小岩井農場が経営する洋食レストラン「オリエント・カフェ」が見える。
シンボル的存在「モリソン書庫」もより美しく変わった!?
オーストラリア出身の冒険家で図書蒐集家でもあるジョージ・アーネスト・モリソン博士から購入した、およそ2万4,000点の東アジアに関する書籍や絵画なども有する東洋文庫。その書庫は「東洋一美しい書棚」と称され、東洋文庫ミュージアムのシンボル的存在でもある。今回のリニューアルで「天井が高くなった!?」という印象を受けたが、構造もレイアウトもそのままで、LED照明を入れ替えた。これだけでかなり違って見えるのだから、記憶や印象はあてにならない。リニューアル前から書棚で構成されたこの空間自体が鑑賞に値するものだったが、その魅力は一段とアップしている。
オリエントホールから2階展示室へ続く階段を上がると、まずはモリソン書庫がお出迎え。今回のリニューアルでは照明を入れ替え、一部のケースを書棚につくり替え、書棚からの落下防止補強を行った。展示室へはエレベーターも利用可能。
モリソン書庫から展示室へ続く「回顧の路」。床面に底知れぬ深さを感じさせるクレバス・エフェクトという仕掛けが施されていたが、今回のリニューアルでは摺りガラスに変更。これなら高所恐怖症の人でも安心して歩けるだろう。
外国人目線で楽しめる「ニッポン再発見 ―異邦人のまなざし ―」
さて…約1年間の休館を経てのリニューアル第一弾企画は、日本での異文化との接触や交流の足跡、外国から見た日本のイメージの変遷をたどる外国目線の企画展。中世ヨーロッパに日本を含むアジアの存在を広く知らしめたマルコ・ポーロから、西洋化が急速に進む明治時代に失われていく日本の美徳を愛したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)まで、日本を訪問した外国人はどのような印象をもち、それをどのように伝えたのか。書籍、書簡、風刺画、絵画、地図などに、日本人による日本解説とは異なる視点で表現されていて大変興味深い。
フランス出身のジョルジュ・ビゴーによる雑誌『トバエ』の1図。19世紀後半のヨーロッパで流行していたジャポニスム(日本趣味)に影響された彼は、日本美術を研究するため来日。これは日本の政治や社会を題材とした風刺画で、失われつつあった日本文化を惜しむ気持ちが込められている。
スコットランドの地図製作者ジョン・トムソンによって、1815年にロンドンで刊行された地図帳に収録された『朝鮮・日本図』。18~19世紀にかけての世界周航で沿岸地域の測量が行われ、それ以前のヨーロッパで制作された地図に比べて精度が向上。
あの名作も、このヒット作も…見て楽しむ日本の出版文化
古典文学や江戸時代のベストセラー本のなかには、内容だけでなく挿し絵や文字までもが鑑賞の対象となる〝書籍〟がある。書写によって読み継がれたこれらの小説や随筆は、木版による印刷技術が発展した江戸時代になるとさまざまな関連本が出版された。
今回の展覧会では、東洋文庫が所蔵するそれらのなかでも鑑賞性の高い版本が出陳されている。〝書き写して読み継ぐ〟という古典的な伝え方以上に、筆跡に切れ目のない連綿体による小さな文字を木版で表現していることに驚くだろう。
世界最古の長編恋愛小説である紫式部の『源氏物語』を、1帖をたった1ページで手書きの文字と絵で表現した『源氏物語絵抄』。雲母(きら)摺りの料紙(書のための装飾を施した加工紙)に木活字でしたためられた『徒然草(嵯峨本)』。古典文学を江戸の印刷技術で魅せるこれらの〝手元で楽しむ芸術〟を、ぜひ会場で味わってほしい。
18世紀ごろに制作された『源氏物語絵抄』の書写本。寛文年間(1661~1673年)に広く普及した『源氏物語絵抄』は、各巻のハイライトシーンとあらすじを1ページで表わした究極のダイジェスト版。写真の右ページは第十四帖の「澪標」で、同じ場面が静嘉堂文庫美術館所蔵の国宝、俵屋宗達の筆による『源氏物語関屋澪標図屛風』の左隻に描かれている。
雲母摺りの料紙を用いた江戸時代初期の『徒然草(嵯峨本)』。見返しの雲母摺りによる鹿の表現も、活字印刷による手書き文字の味わいも、じっくり堪能したい。京都の豪商・角倉素庵が本阿弥光悦につくらせた――などともいわれるが、詳細は謎。
「The story of Kintaro」は『金太郎』、「The story of the kachi-kachi mountain」は『かちかち山』と、日本昔話を外国語に翻訳した〝ちりめん本〟。印刷した和紙を織物の縮緬地のように絞って縮れさせ、独特の風合いや手触りに仕上げたもので、明治時代の中ごろから昭和初期にかけて国内外で流通した。
エントランス部は以前よりオープンな雰囲気に変わったが、ほかにはどこが変わったのだろうか。実はバリアフリー化が進んだり、より鑑賞しやすい展示設備に変更されたりと、確実にブラッシュアップされている。
3月下旬から4月上旬なら、中庭のシーボルト・ガルデンの桜も楽しめるはず。「オリエント・カフェ」での食事やティータイムも、展示鑑賞とセットで、ぜひ!
東洋文庫所蔵の博物図鑑、シーボルトの『日本植物誌』に掲載されている木々や花々を見ることができるシーボルト・ガルテン。
美術館データ
「オープン記念展示 ニッポン再発見 ―異邦人のまなざし―」
会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)
会期:2026年5月17日(日)まで
会期中休館日:火曜日
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
入館料:一般1,000円、65歳以上900円、大学生800円、高校生700円、中学生以下無料
ホームページ https://toyo-bunko.or.jp/
X(旧Twitter)@toyobunko_m