三菱のアート

2026.06.18

19世紀後半のパリで芸術が生まれた場所――

三菱一号館美術館の「“カフェ”に集う芸術家」展で
天才画家たちの才能開花を目撃!

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1860年代のパリは、古い価値観を脱して新しい芸術が生まれようとしていた、近代絵画史において最もエキサイティングな時代だ。マネを筆頭に、モネ、ルノワール、ドガ、ピサロ、セザンヌなど、後に印象派と呼ばれる画家、そして小説家や写真家、時代を読むことに長けた批評家などがカフェに集い、激しい議論を交わし、やがて新しい芸術が生まれた。そんな“カフェ”をテーマにした展覧会が三菱一号館美術館で開催中だ。飲食にとどまらず、ショーを楽しむカジュアルな劇場であり、新しい芸術誕生の場所にもなった“カフェ”から生まれた絵画の意義や読み解き方を、担当学芸員の岩瀬彗さんにうかがった。

「“カフェ”の風景を描いただけじゃない」展覧会とは?

19世紀後半のパリ画壇の主流は、ルネサンス以降400年間も最上位とされてきた「物語画(歴史画)」と呼ばれる絵画。神話や伝説、聖書にある物語などを絵画化したものだ。そこに異なる価値観による新たな創作を確立していったのが、パリのカフェに集った画家たち。モンマルトルの丘の西、パリ中心部の北西に位置する地区の<カフェ・ゲルボワ>という店がきっかけだった。 「<カフェ・ゲルボワ>には、マネやルノワール、モネ、ピサロ、ドガなど、意欲ある画家たちが集まりました。サロン(官展)が認める高尚な芸術に縛られず、新しい創作を模索していた彼らにとって、このカフェでの議論は自分の思考や意志を固める場だったのだと思います」(岩瀬さん、以下同)

<カフェ・ゲルボア>に集まった芸術家たちは、詩人で美術批評家のシャルル・ボードレールの「現代生活を描くべき」という考えをきっかけに、生活者が行き交うパリの街並みやカフェの喧騒、劇場の踊子たちといった、自分たちの身の回りの事象や楽しみに画題を見つけていったのだ。本展では、カフェという身近な場を描いた作品や、カフェから生まれた作品など、ぐっと身近になった19世紀後半のヨーロッパ絵画が並ぶ。
「歌手が歌ったり演芸やMCで笑わせたりといった、カフェの発展形であるともいえるカフェ=コンセールと呼ばれるカジュアルな演芸場や、ショーを見せるキャバレーなども含め、本展では“カフェ”と呼んでいます」

オーギュスト・ルノワール『パリ、トリニテ広場』
1875年ごろ 油彩、カンヴァス ひろしま美術館蔵

オノレ・ドーミエ『「音楽のクロッキ」』:(3)シャンゼリゼにて はたして音楽のおかげでかろうじてビールが飲めるのか、それともビールのおかげで音楽を我慢できるのか、まったく分からなかった』
1852年 リトグラフ 国立西洋美術館蔵

芸術と演芸の現場“カフェ”、そしてアートになったポスター

マネや印象派の画家たちが切り開いた新しい芸術のひとつとして、カフェやキャバレー、劇場が描かれた。寛ぐ客や店内の様子、ステージで踊るダンサーや出演前後の演者などだ。「創作に対する考えが熟成されたカフェという場所は、歓楽だけでなくインスピレーションを与える場所だった」と岩瀬さん。身近なモチーフに自分なりのオリジナリティや、画題を探求していくという視点は、ロートレックの作品でさらに顕著になっていくのだとか。
「彼らはカフェに集って議論することで、新しい芸術を切り開いていきました。そこからだんだん発展していく、その流れを本展でご覧いただきます」

ジュール・シェレ『「ロータスの花」フォリー・ベルジェール』(前期展示)
1893年 リトグラフ 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵(AN.3363)
ステージやダンサーの華やかさを演出したシェレのポスター。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック『ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ』
1891年 リトグラフ 三菱一号館美術館蔵
1889年10月6日、4回目のパリ万国博覧会が閉幕したタイミングでモンマルトルに開店したダンスホール<ムーラン・ルージュ>。公演を宣伝するポスターに描いたのは、シルエットの男優や観客のなかで浮かび上がるダンサー。

詩や音楽、美術、演劇と多岐にわたる芸術の前衛的実験の場として、大衆的な人気を博した芸術キャバレー<シャ・ノワール>。19世紀末から20世紀初頭にかけてのモンマルトルのキャバレー文化を牽引したこの店で演じられた影絵芝居は、巡回公演が行われるほどの人気を博す。黄色い背景に黒猫が佇むこの店のアイコン的ポスターは、その巡業を宣伝するためのものだ。 「人気の演目はその店を出て地方へ巡業したわけですが、その影響はスペインのバルセロナにも及びます。当時モンマルトルに滞在していたバルセロナの近代芸術運動の芸術家たちが、<シャ・ノワール>の求心力に引っ張られるようにしてバルセロナの旧市街に<クアトラ・ガッツ>というカフェを開きました。その店に通い、パリへ赴く決意を固めたのが若き日のピカソです。本展では、ロートレックの代表作でもあるフレンチカンカンを描いた作品に呼応するように描かれたピカソの『カンカン』なども展示します」
パリに新しい芸術を誕生させたカフェ文化は、こうして広がりを見せたのだ。

テオフィル・アレクサンドル・スタンラン『シャ・ノワール巡業公演』
1896年 リトグラフ 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵(AN.4829)
陰影や遠近を排除した平坦な色面構成や大胆な余白、アシンメトリーな画面構成など、浮世絵からの影響が指摘されるポスター。パリを中心に、芸術家たちがジャポニスムに熱狂していた時代のもの。

ルノワールもロートレックもゴッホもユトリロも!

モンマルトルの丘を上がった所に建つ、粉挽きのための風車。その役目を終えるとガンゲットと呼ばれる居酒屋のようなカフェに、そして屋外ダンスホール<ムーラン・ド・ガレット>に姿を変えてにぎわう。
「ルノワールもロートレックも、ゴッホもユトリロもここを描いています。バルセロナで<クアトラ・ガッツ>をつくった4人のメンバーのうちのカザスとルシニョルは、<ムーラン・ド・ガレット>に間借りしていたことも。多くの画家に刺激を与えた場所です。本展に登場するさまざまなカフェのなかで、<ムーラン・ド・ガレット>は重要な店のひとつだと言っていいでしょう」

フィンセント・ファン・ゴッホ『モンマルトルの風車』
1886年 油彩、カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館蔵
<ムーラン・ド・ガレット>を描いた作品のひとつ。

モーリス・ユトリロ『ムーラン・ド・ラ・ガレット』
1910年ごろ  油彩、厚紙 ポーラ美術館蔵

カザスの油彩作品『マドレーヌ』は、この <ムーラン・ド・ガレット>でのスケッチ。本展のチラシなどにも使われているこの作品の魅力を岩瀬さんはこう話す。
「マドレーヌの体の向きや視線に注目してご覧ください。テーブルに向かって腰かけているのに上半身は右側にひねり、視線はもっと右手にあります。背景の鏡に店内のにぎわいが映し出されていて、群衆の中の孤独を感じるかもしれません。騒がしいはずの店内で何を考えているのか、誰かを待っているのかなど、いろいろと想像させる興味深い作品です」
風車がシンボルのこのカフェを多くの画家が描いたが、関連する作品を同時に鑑賞できるのも本展の見どころだ。

ラモン・カザス『マドレーヌ』
1892年 油彩、カンヴァス ムンサラット美術館蔵
Museu de Montserrat. Donated by J. Sala Ardiz.
「カタルーニャのロートレック」とも呼ばれるカザスの本作は、彼が<ムーラン・ド・ガレット>に居室を構えていた時期に描かれたもの。日本では35年ぶりの公開となる。

この「“カフェ”に集う芸術家-印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」では、毎週金曜日と第2水曜日などは20時まで開館。18時から20時までの夜間限定で少し大人向けのエピソード紹介や、一部展示室では音楽も流れる。赤い洋服を対象としたカラーコーデ割や、美食家として名を馳せたロートレックのレシピ付き鑑賞券販売なども実施と、ちょっとしたお楽しみも。 芸術家たちが熱い議論を交わして思考を深め、生活者たちがアルコールやステージを楽しんだ19世紀後半のパリの“カフェ文化”。そんなエキサイティングな空気感を、にぎわう丸の内散策とともに味わいたい。

美術館データ

三菱一号館美術館外観

“カフェ”に集う芸術家 ―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで」
Artists at the Café:
From the Impressionists, Van Gogh and
Toulouse-Lautrec to Picasso


会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
会期:2026年6月13日(土)~9月23日(水・祝)
※8月4日以降一部作品の展示替えあり
会期中休館日:祝日を除く月曜日
※トークフリーデー(6月29日、7月27日、8月31日)は開館
開館時間:10時~18時
※金曜日、第2水曜日、7月25日(土)、9月19日(土)~23日(水・祝)は20:00まで、いずれも入館は閉館の30分前まで
※夜間開館時間(18~20時)限定で、音楽による特別演出を行うほか、少し大人向けの“カフェ”にまつわる裏話をご紹介


入館料(当日券):一般2,300円、大学生・専門学校生1,300円、高校生1,000円、中学生以下無料
※第2水曜日は、17時以降に当館チケット窓口で当日のマジックアワーチケット1,600円を販売
※カラーコーデ割「Rouge Classique」として、赤い洋服を着用した来館者には観覧料を100円引きに(当日チケット窓口で購入の場合のみ適用、自己申告制)
※「美食家ロートレックのレシピ付き鑑賞券」2,800円(当日券)も数量限定で販売中(ロートレックが親友ジョワイヤンとつくったレシピの一部を小冊子にし、来館時チケット窓口にてお渡し)

小冊子のイメージ

問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)

展覧会ホームページ https://mimt.jp/ex_sp/cafe/

一般、大学生、高校生入館料
200円割引

※入館時にこの画面をお見せください
この画面をお見せいただくことで
入館料が割引となります
2名様まで1回限り有効
他の割引との併用不可
チケット窓口での購入のみ適用

<会期中の2026年9月23日まで>


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