三菱のアート

2026.07.02

『見返り美人図』は7月12日までの限定公開!

静嘉堂@丸の内で
「元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開」開催中

静嘉堂@丸の内で 「元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開」開催中

左:重要文化財『四条河原遊楽図屛風』 (公財)静嘉堂蔵
右:菱川師宣『見返り美人図』 東京国立博物館蔵 Image: TNM Image Archives

菱川師宣(ひしかわもろのぶ)をご存知だろうか。「浮世絵の祖」とも呼ばれる、浮世絵草創期を代表する絵師だ。人物名より、振り向く赤い着物の女性を描いた肉筆画『見返り美人図』のほうが知られているかもしれない。
「静嘉堂文庫美術館に師宣を評価する基準作といってもいい名作が秘蔵されていますが、今回それらを一挙に公開します。しかも、最初の2週間は東京国立博物館所蔵の『見返り美人図』も。東博の代名詞ともいうべき本作は修理をしていたので、久々のお目見えです。ぜひお見逃しなく!」と、この展覧会『元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開』を担当した学芸員の吉田恵理さん。本展準備中に吉田さんが見つけたという『十二ヶ月風俗図巻』が描かれた目的など、熱い話をうかがった。

絵巻に屛風に掛軸…師宣のとっておきが大集結!

展覧会のタイトルにも「十二ヶ月風俗図巻 大公開」とあるように、本展の超目玉は上下巻合わせて全長20mを超える『十二ヶ月風俗図巻』だ。師宣のこうした長い図巻(絵巻)はいくつも残っているが、本作ほど描写が巧みなものはないと吉田さんは胸を張る。
「おそらく、現存する同種の図巻のなかでトップクラスの出来栄えです。師宣といえば歌舞伎や吉原の遊里がメイン画題だと思われがちですが、庶民によく売れるそういったテーマの版画商品だけでなく、武家階級など富裕層からの注文に応えた本作のような絵巻や屛風、『見返り美人図』のような掛軸と多作です」

菱川師宣『見返り美人図』【6月27日(土)~7月12日(日)限定公開】
江戸時代・元禄元~7(1688~1704)年ごろ 1幅 東京国立博物館蔵
Image:TNM Image archives

最も知られた肉筆の浮世絵。綸子地に桜や菊の花紋をあしらった元禄小袖、帯は吉弥結びにし、長い髪は玉結びにしてべっ甲のかんざしを挿す…と、元禄時代の流行ファッションが山盛り! 不自然な振り返りポーズは、それらを見せるためのものといわれる。

重要文化財『四条河原遊楽図屛風』
江戸時代・寛永期(1622~1644年)ごろ 2曲1双 (公財)静嘉堂蔵

右隻上から左隻下に向かって流れるのは鴨川。京都の中心部の華やかな遊楽の様子を描く。

この子はだれ? 贅沢な絵巻に描かれた謎

菱川師宣『十二ヶ月風俗図巻』上巻(部分)【前期展示】
江戸時代・元禄元~7(1688~1704)年ごろ 2巻 (公財)静嘉堂蔵

雛祭りに端午の節句、花見、盆踊り、吉原遊びなど、江戸文化の華とも言うべき〝元禄イメージ〟が次から次へと展開。上質な画絹に絵具がふんだんに使われ、裏彩色が施されていたり金を使用したり、仕立ても豪華で大変贅沢な作品。武家など高貴な人物からの特別注文と考えられる。

『十二ヶ月風俗図巻』は、1月から12月まで風俗や行事、季節感などを盛り込んだ絵巻。上下巻で20mを超える大作だ。
「ひとりの男児の成長を願って描かせた注文品ではないのか、ということが今回の新発見です。師宣の作品には珍しく子どもが何度も出てくることが気になって見ていたら、男の子の傍らには太刀持ちと呼ばれる家来が常に寄り添っていることに気づき、この図巻の主人公はこの男の子なのではと思えてきたんです」

上巻の1月は男児が庭で演じられている千秋万歳を見ている場面だが、周りの大人たちのほとんどはそちらではなく男児を見ていたり、周囲に気を配っている様子だ。
「通常の風俗画であれば、パフォーマンスをしている芸能者をメインとして大きく描きますし、周囲の人々も彼らを見ているように描くものです。しかしこの絵巻では、大人たちは演者ではなく男の子を見守っているように見えます。しかも、その子だけ立派な敷物の上に立っています。このシーンの主役は間違いなくこの男の子なんです」
江戸時代、武家では新年に髪置や袴着といった幼児の儀礼が行われた。それを意識したものではないかと吉田さんは言う。

「続く2月は初午。お稲荷さんにお参りする光景が描かれていますが、どうやらお宮参りのようです。この男の子の誕生時の思い出を回想した場面かもしれませんね。3月は雛祭り。当時の武家では雛祭りの際に小さな飾り物を贈る風習があったようで、そうした一般的な風俗や宴会の様子が描かれています。 4月はお釈迦様の誕生を祝う灌仏会。5月の藤見の宴の様子は通常の季節風俗のようですが、父親と思しき人物が見てとれます。1月の場面で男の子のそばにいる母親と思われる女性の着物の紋と、この男性の紋が同じですから、おそらくふたりは夫婦で男の子の両親なのでは…というように想像しながら読み解いていくと合点がいくのです。絵の中にさまざまな情報があることに展覧会準備中に気づき、とても興奮し、わくわくしました(笑)」

この新説については図録の解説文に詳しいが、会場では音声ガイドでその案内を聴くことができる。前期に上巻のすべてを、後期に下巻のすべてを展示。1巻10mにおよぶ絵巻を、音声ガイドを頼りに右から順に上下巻を通観すると、武家に生まれた男児が最後は青年になって吉原で遊ぶ――といったストーリーが浮かんでくるという仕掛けだ。これはぜひ、前期も後期も見に行って音声ガイドとともに鑑賞しなくては!

修理によって判明した制作時期と菱川ブランドのあり方

『十二ヶ月風俗図巻』をじっくり読み解いていくと、ハイクラスな需要が見えてくるという。
「男の子の成長を見守り喜ぶ、あたたかな眼差しが感じられるのです。浮世絵というと庶民の美術と言われがちですし、師宣も最初は安価に買える木版画の商品が庶民の間で大流行しました。しかしその流行は庶民に留まらず、武家や富裕層などにも届いたのです。そうして晩年の師宣は、ハイクラスな人々のプライベートな注文に応じた肉筆画の仕事も数多く手掛けました」
この作品も、男児の誕生を寿いで、あるいは成長の無事を願って、師宣に発注されたものだと推測できるという。
「裏彩色という絹地の裏側からも絵具を塗る非常に贅沢な技法が用いられています。それを子細に観察すると、輪郭線からはみ出るように大雑把に塗っている部分と、はみ出さずきっちり塗っている部分がある。少なくとも2人以上の手が加わっているようです」

晩年の師宣は、何人もの弟子を抱える大きな工房を主宰し、数多くの注文に応えた。今回の発見により、当時の注文制作の実態や、工房制作のあり方が裏付けられたと言う。
「工房の弟子たちが手伝って描いたのなら、それは師宣の作品とは言えないのではないかと思うかもしれませんが、たとえば高級ブランドの商品がひとりの職人によってつくられるのではないのと同じこと。工房制作こそ、菱川師宣という巨大ブランドのあり方だったのです」

菱川師宣『十二ヶ月風俗図巻』上巻(部分)【前期展示】

5月の藤見の宴の場面。左端の頭巾をかぶった男が父親とみられ、この男性は別の場面にも登場。

菱川師宣『十二ヶ月風俗図巻』下巻(部分)【後期展示】

12月は、成長した男児が吉原で遊ぶ場面か?

師宣、一蝶、長春と、時代を超えて元禄絵画を展観

『十二ヶ月風俗図巻』同様、師宣の晩年の熱量が詰まった東京国立博物館所蔵の『歌舞伎図屛風』も展示する。また、日英博覧会に出品された掛軸の美人図なども。掛軸、屛風、絵巻という、あらゆる絵画形態における師宣の代表作が一堂に揃う。

重要文化財 菱川師宣『歌舞伎図屛風』【前期展示】
江戸時代・元禄5~6(1692~1693)年ごろ 6曲1双 東京国立博物館蔵
Image:TNM Image archives

役者総出の華やかな舞台「太平楽おどり」が繰り広げられる右隻。高貴な人は桟敷席で、庶民は地面で観劇。小屋の前では呼び込みが声を張り上げる姿も。左隻には、楽屋に繋がる芝居茶屋で役者が贔屓の客をもてなす場面や、花見の酒宴が。役者が支度中の楽屋も描かれている。

「師宣の展覧会ではありますが、元禄という時代そのものにもスポットを当てています。元禄時代を代表する英一蝶(はなぶさいっちょう)や、師宣が築き上げた浮世絵というスタイルを受け継いだ宮川長春(みやがわちょうしゅん)の作品も。師宣から始まった浮世絵の流れが、その後の宮川派や勝川派へとどのように受け継がれていったのか、歴史の大河をお見せします」
江戸後期には、絵師であり戯作者であり、優れた考証家でもあった山東京伝(さんとうきょうでん)が改めて師宣の業績を掘り起こすなどして、過去の江戸文化が学問的に研究された。そうした時代の気風の中で生まれた、鈴木其一(すずききいつ)の美人画も展示する。
「土佐光起(とさみつおき)の落款が入っていながら、実は後世につくられた師宣風の模倣画『美人図巻』なども参考資料として展示します。それほどまでに元禄時代の風俗に対するブームと絶大な需要があったのだという、格好の歴史的証拠としてご覧ください」

英一蝶『朝暾曳馬図』
江戸時代・元禄元~11(1688~1698)年ごろ 1幅 (公財)静嘉堂蔵

やまと絵師・土佐光信の画系と称しつつ、岩佐又兵衛や菱川師宣に学んだ一蝶の名作。

宮川長春『風俗図巻』(部分)【この場面は8月18日~23日に展示】
重要文化財 江戸時代・元文~寛永期(1736~1751)年ごろ 1巻 東京国立博物館蔵

師宣の後を継いだ息子が絵師を廃業して途絶えた菱川工房だが、後に師宣を私淑した長春によって〝師宣スタイル〟は受け継がれた。

鈴木其一『雪月花三美人図』のうち「花図」
江戸時代・文政期(1818~1830年)ごろ 全3幅 (公財)静嘉堂蔵

師宣が没してから100年以上経って描かれた、江戸琳派の其一による美人画。元禄期に流行した髪型、かもめ髱(たぼ)を強調するような立ち姿も〝師宣スタイル〟だ。

師宣と、彼をリスペクトした後世の絵師の優品を通して、元禄時代の華やかな庶民文化を楽しむ展覧会。会場のホワイエには、〝あの美人〟の再現衣裳も! その本家作品の展示は7月12日までなのでお見逃しなく!

美術館データ

静嘉堂文庫

「元禄!師宣劇場 十二ヶ月風俗図巻 大公開」

『Step Inside Moronobu’s Genre Scenes of the Twelve Months:
Masterpieces of Early Ukiyo-e


会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内/東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)
会期:2026年6月27日(土)~8月23日(日)
前期6月27日(土)~7月26日(日) 後期7月28日(火)~8月23日(日)
※前後期で一部作品の展示替えあり
会期中休館日:月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
開館時間:10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
※第4水曜日の7月22日(水)は20時閉館、8月21日(金)と22日(土)は19時閉館
※師宣劇場【見返り美人図ナイト】開催の7月3日(金)・10日(金)は20時閉館
入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※「元禄コーデ割引」あり、詳細はHPで。


【関連イベント/講演会「江戸のトレンディ絵師、菱川師宣」】
講師:田沢裕賀氏(大分県立美術館館長、東京国立博物館名誉館員)
日時:7月12日(日) 11:00~12:30
定員:200名
会場:明治安田ヴィレッジ「明治安田ホール丸の内」(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治安田生命ビル低層棟4階)
参加費:無料 ※ただし、本展入館料込み参加券(1,500円) 要予約(Webで事前購入)


【関連イベント/担当学芸員のスライドトーク】
日時:2026年7月5日(日)、7月18日(土)、8月11日(火・祝)、8月16日(日)、各日11:00〜/14:30~
会場:明治安田ヴィレッジ「明治安田ギャラリー」(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治安田生命ビル1階)
定員:各回40名
参加費:無料(ただし要当日入館券)、当日整理券配布(予約優先)


問い合わせ ☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)
ホームページ https://www.seikado.or.jp/

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instagram @seikado_bunko_artmuseum

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<会期中の2026年8月23日(日)まで>


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