〝地図〟というものにはじめて触れたのはいつだったか。47都道府県を記した日本地図だったのか、小さな日本列島がほぼ中央に位置する世界地図だったのか。いや、もしかしたら地球儀だったかも!? 地図は情報だ。正しくなければならない。ところが東洋文庫ミュージアムで開催中の展覧会『世界図ってなんだ!? ―地図が語る世界―』の展示物のなかには、〝持っている知識だけで世界を描いた地図〟や〝自分達の正しさで描いた地図〟といったクセ者も…。その見どころを、担当学芸員の篠木由喜さんに伺った。
拡大して見たい! 西洋と東洋の知識による合作『坤輿万国全図』
「静止している地球を中心に太陽や月が回っているという天動説が唱えられたり、いや、地球が太陽の周りを回っているのでは?などと議論されていた古代ギリシァからローマ時代を経て、時代がくだり〝世界のかたち〟が分かってくると、ヨーロッパではイギリスが中心にくるような世界地図が作られていきました。その知識をもって16世紀末に中国にやってきたイエズス会士が、中国、太平洋を中心にして、地名を漢字にした世界地図を作ったんです」
今回の展覧会の目玉でもあるのが、その『坤輿万国全図(こんよばんこくぜんず)』。太平洋を中央に置いた初めての世界地図で、数学、天文学、地理学などを学んだイエズス会士のマテオ・リッチと中国知識人との合作だ。
「世界地図の歴史において金字塔のひとつになった地図ではありますが、よく見ると不思議な巨大大陸があったり、夜人国とか、女人国なんていうファンタジックな地名があったり。女人国という名前自体は中国の地誌にも載っています。ギリシャ神話を元にした地名があったりも。西洋と東洋の知識の融合が図られているところが『坤輿万国全図』の重要な見どころのひとつです」
中国では正確な世界地図は必要なかった!?
『坤輿万国全図』は、大航海時代に活躍したアブラハム・オルテリウスという地理学者が作った世界地図を下地にしているのだとか。
「大航海時代を迎えてから測量技術も発展して、ヨーロッパではより正確な地図が求められていきました。『坤輿万国全図』も日本に早い段階で入ってきますが、知識が刻々と高まり、それまでの常識が変わっていった時代ですから、日本ではオランダを経由して入ってきたヨーロッパ製の地図などを元にアップデートが繰り返され、どんどん最新情報が加えられた地図が作られていきました」
一方で中国は、清朝第6代の乾隆帝以降、測量地図の製作がストップしたのだとか。
「そこが地図の面白いところです。中国で正確だとされていたのは、大地は平面であることを前提とした中国製の地図。それで全然困らないのに、なぜ西洋人の知識を基にした地図を使わなければならないんだ、ということなのですね。それで中国では『坤輿万国全図』以降の長い間、ほとんどアップデートされた世界地図は作られませんでした。清朝末期の19世紀末に政治改革を目指した先進的な官僚でさえ、世界地図は科挙の試験のあとに古本屋で初めて見た、ということもあったようです。科挙の試験に世界の知識は必要なかったからでしょう(※1901年の科挙改革で世界地図に基づいた問題も出題されるようになった)。国による知識の断絶が世界地図から読み取れる、そこが本展の見どころのひとつです」
北海道と思われる位置に「加賀」や「佐渡」があったりする『坤輿万国全図』だが、これも日本でアップデートしながら写されていった。本展ではその推移も鑑賞できる。
『坤輿万国全図』 マリオ・リッチ
17~18世紀ごろ(清代)/写本 公益財団法人東洋文庫蔵
横幅約4ⅿもある巨大地図。拡大して見られるよう、展示室では超高精細による4K画像が添えられている。
〝古地図片手に街歩き〟ならぬ〝古地図鑑賞で古の世界旅行〟はいかが?
江戸時代の江戸を記した古地図と照らし合わせながら今の東京を歩くのは、散歩のひとつの楽しみ方だ。ドラマや映画などで見る機会もあってか、江戸の地理や町並みが想像しやすいからだろう。
本展では、江戸時代に日本で製作された世界地図なども展示。外国との交流が制限されていた時代、江戸でベストセラーになったという世界地図を、彼らはどのように見て世界を想像したのだろう。
『地球万国山海輿地全図』長久保赤水
江戸時代・天明5(1785)年以降 公益財団法人東洋文庫蔵
江戸時代にベストセラーとなった世界地図、なんと50種類もの改訂版や模倣版が作られた。
西洋の知識と中国の世界観が融合して生まれた『坤輿万国全図』。大規模な修復をほどこし、東洋文庫ミュージアム初公開となった。この地図を軸にして、ヨーロッパ、中国、そして日本における世界地図の変遷をたどるこの展覧会で、地域によって世界との向き合い方が大きく異なることを楽しみたい。
博物館データ
企画展『世界図ってなんだ!? ―地図が語る世界―』
Mapping the World
How Maps Reveal Changing Worldviews
会場:東洋文庫ミュージアム(東京都文京区本駒込2-28-21)
会期:2026年10月7日(水)~2027年1月17日(日)
会期中休館日:火曜日、12月28日(月)~1月2日(土)
開館時間:10時~17時(最終入館は16時30分)
入館料:一般1,000円、65歳以上900円、大学生800円、高校生700円、中学生以下無料
【ミュージアム講演会「坤輿万国全図から長久保赤水の世界図へ―江戸後期の庶民の世界観―」】
講師:海田俊一氏(国際古地図研究協会(IMCoS)日本代表、古地図コレクター)
日程:10月18日(日) 14:00~15:30
【ミュージアム講演会「『坤輿万国全図』のなかの海域世界―マテオ・リッチと李之藻の対話」】
講師:高橋公明氏(名古屋大学名誉教授)
日程:11月21日(土) 14:00~15:30
【ミュージアム講演会「日本の中国地図に与えた中国史書の影響―竜門はどこにある?」】
講師:大澤顕弘氏(学習院大学教授)
日程:12月19日(土) 14:00~15:30
※演題は変更となる可能性があります
※要予約。申し込み方法等、詳細はホームページで。
ホームページ https://toyo-bunko.or.jp/
X(旧Twitter)@toyobunko_m
一般(1,000円)入館料
100円割引
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この画面をお見せいただくことで
入館料が割引となります
※スクリーンショット不可
2名様まで1回限り有効
他の割引との併用不可
チケット窓口での購入のみ適用
<会期中の2027年1月17日まで>
BSテレ東で毎週木曜夜10時から放送中の「あの本、読みました?」。本を愛する人々に向けて、話題の一冊や注目の作家、本との新たな出会いを届ける読書エンターテインメント番組です。
10月から12月放送分のオープニング映像は、約100万冊の蔵書を誇る「東洋文庫」を舞台に撮影したものを放送、さらに10月8日(木)、10月15日(木)放送回では、東洋文庫の代表的なコレクションが並ぶ「モリソン書庫」を背景にMCの鈴木保奈美さんとゲストが、本の魅力や奥深い世界を紹介します。
歴史ある東洋文庫ならではの雰囲気にもぜひご注目ください。
【リンク】
「あの本、読みました?」
BSテレ東 毎週木曜 夜10時~10時55分
あの本、読みました? | テレ東・BSテレ東 7ch(公式)