トップインタビュー

2024.04.04

三菱財団

55年に渡る活動で5人のノーベル賞受賞者を輩出!
独自の助成で日本の未来をもっと輝かせたい

三菱財団 理事長
三毛 兼承(みけ・かねつぐ)

1956年、東京都生まれ。1979年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2005年執行役員、2009年常務執行役員、2013年専務執行役員、2016年副頭取、2017年頭取を歴任。その後、2019年三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役代表執行役社長兼CEO、2021年同会長に就任(現職)。

三菱関連企業のトップのお考えやお人柄をお伝えする連載『トップインタビュー』。第12回は三菱財団の三毛 兼承理事長(三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役執行役会長)に、財団の果たす役割や現在の活動状況、今後の助成への抱負などを聞いた。

――三菱財団は1969年9月に三菱創業100周年を記念して設立されました。設立の経緯や背景についてお聞かせください。

三毛当財団についてお話させていただくに際して、三菱グループの社会貢献活動の歴史に触れておきたいと思います。三菱グループは基本理念である三綱領のひとつ「所期奉公」の精神に基づき、創業の頃から社会貢献活動に積極的に取り組んできました。学術研究の分野では、三菱本社が1911年に帝国学士院(現日本学士院)に研究奨励の寄付を実施したほか、理化学研究所、がん研究会、日本学術振興会、国際文化振興会などを支援しました。社会福祉の分野でも、社会事業団体や病院、障がい者養護施設などへの寄付を行ってきました。さらに、文化支援や教育・体育の分野でも、1924年に東洋文庫、1939年には静嘉堂文庫、1940年にも三菱養和会などの文化団体を設立し、今日に至っています。
こうした三菱グループの継続的な取り組みの一環として、三菱創業100周年を記念し、日本社会の学術・教育・文化並びに福祉の向上に資することを目的に設立されたのが三菱財団です。戦後の日本が高度成長期を迎え、世の中全体が経済発展を志向していた時期に、三菱グループは、学術研究や社会福祉事業などへの助成事業を通じて社会に貢献するために当財団を設立したのです。当財団の設立趣意書には、三菱グループの社会に対する姿勢が明確に記され、現在も基本理念として財団運営のベースになっています。

2023年度までに累計で4,900件、209億円を助成

――財団は三綱領の「所期奉公」の精神を体現する存在なのですね。5年後には設立60周年を迎えますが、これまでの財団の歩みについてもお聞かせください。

三毛当財団では自然科学や人文科学の分野で学術研究に取り組む研究者を支援するとともに、社会福祉分野でさまざまな社会課題の解決に取り組む個人や団体への助成を行ってきました。財団設立から2023年度までの累計助成件数は約4,900件、累計助成額は約209億円に上ります。そのうち自然科学分野が約1,900件(約135億円)、人文科学分野は約1,100件(約26億円)、社会福祉分野も約1,400件(約45億円)となっています。過去に助成を受けられた方の中には5人のノーベル賞受賞者(赤﨑 勇氏、小柴 昌俊氏、野依 良治氏、本庶 佑氏、山中 伸弥氏)も含まれており、こうした素晴らしい研究者の方々のお役に立てたであろうことは財団の誇りであり、大変光栄に思っています。
2019年には、財団設立50周年を機に文化財保存修復への助成も始めています。全国各地に所在する文化財(建造物を除く絵画・彫刻・工芸品など)に対し、これまでに34件(8,500万円)の助成を実施しました。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生直後の2020年度には、三菱創業150周年記念事業の一環として三菱グループから5億円の資金拠出を受け、新型コロナ感染症関連特別助成(自然科学分野4億円、社会福祉分野1億円)も行いました。

先駆的研究や地道な基礎研究に門戸開く「完全公募制」

――三菱財団ならではの助成の特徴や、具体的な助成内容についてもお教えください。

三毛当財団の助成の大きな特徴として、「完全公募制」を採用していることが挙げられます。多くの財団は学会等からの推薦をベースに助成を行っているようですが、当財団は研究者個人や事業者が直接応募できる仕組みになっています。応募者に広く門戸を開放することで、刻々と変化する社会課題に柔軟に対応できるだけでなく、目先の成果にとらわれず、地道な基礎研究や先駆的研究に助成することが可能になります。
現在の助成内容ですが、自然科学・人文科学・社会福祉・文化財保存修復の4分野で通常助成の応募申し込みを受け、合計で応募件数約1,500~1,600件、応募金額約90億円と非常に多くの応募をいただいています。その中から、各分野でトップクラスの選考委員の方々による公正・中立かつ厳格な審査を経て例年140件程度を採択し、総額約5億~5億6,000万円を助成しています。
自然科学分野では40歳未満の研究者を対象とした「若手助成」のカテゴリーを設け、指導教員から独立して研究を始める方も対象にするといった独自の取り組みも行っています。また、特別助成として、社会福祉法人中央共同募金会と共同で「外国にルーツがある人々への支援活動応援助成」を実施しています。2021年度の開始当初はコロナ禍での生活困窮者や社会的孤立者への直接的支援が中心でしたが、2023年度はポストコロナ社会に向け、地域との共生やネットワーク構築を支援する活動にも助成を実施しました。

2023年度は4年ぶりに助成金贈呈式を開催

――三菱財団の最近の活動で印象に残っていることがありましたらぜひご紹介ください。

三毛2023年9月11日に、東京・丸の内の東京會舘で2023年度の助成金贈呈式を開催しました。式には助成金受領者と来賓、選考委員、財団役員合わせて約230名の方々にご出席いただきました。助成金贈呈式は当財団のメインイベントであり、設立記念日に当たる9月11日を通常開催日として毎年開催してきましたが、ここ数年はコロナ禍の影響で開催できず、2019年9月以来、実に4年ぶりとなりました。久しぶりに助成者の皆さまをお迎えして贈呈式を開催できたことは、私達にとっても大きな喜びでした。同じ日には助成金贈呈式に先立ち、2023年度研究成果報告会も行いました。こちらの報告会も、コロナ禍の影響による開催見合わせをはさみ、2018年9月以来5年ぶりの開催でした。今回は、過去の助成先の中から自然科学分野と文化財保存修復分野の2分野の代表者にご登壇いただきました。

コロナ禍を経て4年ぶりに開催された「2023年度助成金贈呈式」

若手研究者・女性研究者からの応募を歓迎

――三菱財団のこれからの活動について、抱負をお聞かせください。

三毛「既成概念にとらわれない研究、公的資金を受けづらい研究、独創的・先駆的な研究・事業などに対し幅広く光を当てる」という当財団の基本スタンスは今後も変えることなく、広く助成事業を行っていきたいと思います。日本の未来を支える若手研究者を発掘すべく、「若手助成」の分野についても引き続き注力していく所存です。また、多様な人材が活躍する社会の実現に向け、男女共同参画社会基本法や女性活躍推進法の趣旨に賛同し、女性研究者の皆様からの応募を大いに歓迎しています。当財団には毎年度非常にたくさんの応募をいただき、競争倍率は例年10倍を超える状況にありますが、今後とも良質な応募案件に対して少しでも多くお応えすることを通じ、日本社会に貢献していきたいと思います。

――三菱グループ各社では2024年度がスタートしています。最後に、『マンスリーみつびし』の読者へメッセージをお願いします。

三毛日本経済は長らく続いたデフレ・低成長からの脱却に少しずつ手応えを感じ始めていますが、世界に目を転じれば、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマスの紛争等も長期化する中、世界情勢は不安定さを増し、分断が進んでいるように思われます。
三菱第四代社長の岩崎小彌太が「三綱領」の基礎となる考え方を示した昭和初期も、戦争や不況に喘いだ激動期という意味では、今と通ずるところがあったのかもしれません。
制定から約1世紀を経た現代においても、三菱グループの基本理念として受け継がれる「三綱領」ですが、その解釈は時代とともに変化してきました。
例えば、「三綱領」のひとつである「所期奉公」は、SDGsの重要性が叫ばれる現代においては、制定当初に謳われていた「社会貢献」のみならず、「地球環境の維持」をも意味する理念としてより広く捉えられています。いつの時代も変わらぬ伝統やアイデンティティでありつつ、人々の価値観や社会環境の変化に応じて順応し得るのが「三綱領」であり、そこに今日まで発展を続ける三菱グループの基本理念として、色褪せぬことのない本質があると考えています。
三菱のDNAを受け継ぐ当財団としましても、先人たちが築いた伝統や文化を守りつつ、時代や環境変化に応じた独創的で先駆的な研究・事業への挑戦を確りと後押しする。そうした活動を通じて、社会の持続的な成長と発展に貢献していきたいと考えています。

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