トップインタビュー

2026.01.08

東洋文庫

アジアの知恵の集積である東洋文庫のミュージアムが
2026年1月21日にリニューアル・オープン

三菱関連企業のトップのお考えやお人柄をお伝えする連載『トップインタビュー』。第31回は東洋文庫理事長の宮永 俊一氏に三菱グループが運営する東洋文庫の歴史や役割、社会貢献の意義などについて聞いた。

トップインタビュー メインビジュアル 「マンスリーみつびし」

東洋文庫の展示物が大好き。所蔵目録はご本人いわく「オタクですから、よくチェックしています」。

公益財団法人 東洋文庫理事長
宮永 俊一(みやなが・しゅんいち)

1948年福岡県生まれ。東京大学法学部卒業。2013年4月から三菱重工業取締役社長。2019年4月から同社会長。現在は同社名誉顧問、三菱商事株式会社・三菱自動車工業株式会社 社外取締役等、政府税制調査会特別委員、健康保険組合連合会会長、一般財団法人中東協力センター会長等。2015年から2019年にかけて日本経済団体連合会副会長。2025年6月から東洋文庫にて現職。

東洋の智慧と知識の宝庫として多くの人々に愛され、三菱グループの誇りでもある東洋文庫。デジタル化の加速により、新時代にふさわしい価値を産み出して、さらなる社会貢献に努めたい。

――2024年に東洋文庫は100周年を迎えました。改めて東洋文庫100年の歩みをお聞かせください。

宮永東洋文庫はおよそ100万冊の書籍を所蔵する、日本最大にして世界でも五指に数えられる東洋学の研究図書館です。この100万冊は東洋文庫の創立以前から、100年以上にわたって蒐集されてきたさまざまなコレクションの集積です。ですから、ひと口に100年といっても、実質的には100年以上の歴史があります。


このうち最も著名でその後の東洋文庫のコレクション形成に決定的な影響を与えたのが、「岩崎文庫」と「モリソン文庫」の二大コレクションです。岩崎家は漢学を代々重んじてきましたが、3代目の岩崎 久彌が蒐集した貴重で膨大な和漢書籍群が、「岩崎文庫」と呼ばれるものです。久彌は米国に留学した経験もあり、東西両方の知識を備えた方でした。明治維新以降、日本が西洋に多くを学ぶ一方で、東洋の歴史に根差した智慧や知識を大事しなければならないというお気持ちがあったのだろうと個人的に想像しております。
とくに貴重書については、鉱物学者であり稀代の蔵書コレクターとしても名高い和田 維四郎(わだ つなしろう)が、久彌個人の蔵書形成に指南役として大きな役割を果たしました。岩崎家からは3度にわたって寄贈がなされ、現在は3万8,000冊にのぼり、すでに書誌目録も刊行されています。


また、岩崎文庫と並んで有名で、東洋文庫の蔵書形成にあたってそれ以上のインパクトを与えたのが「モリソン文庫」です。G.E.モリソンはオーストラリアの方で、英紙『タイムズ』の中国通信員を務めた後、中華民国の総統府政治顧問となったほか、冒険家、図書蒐集家でもありました。非常に東洋通で、生涯にわたって中国やその周辺の東北アジア・中央アジア・東南アジア・南アジア・西アジアに関する貴重な洋古書コレクション約2万4,000冊を蒐集しました。岩崎 久彌はこの「モリソン文庫」を1917年に3万5,000ポンド(現在価値数十億円)で一括購入しました。
岩崎文庫とモリソン文庫、この二大コレクションの流れがひとつにまとまったことで、「日本を含めたアジア全領域」を網羅することになった東洋文庫は、1924年に岩崎 久彌の支援により財団法人として出発し、その後も貴重書や研究書の蒐集を続け、多くの方々に活用いただける東洋学の研究図書館となったのです。

――戦後は財閥解体があり、苦しい時期もあったとお聞きしました。

宮永そうですね。ただ、東洋文庫はそれ以前から社会に開かれた研究図書館として、多くの方々から共鳴、共感されることが多かったのではないかと思っています。それ故でしょうか、戦後は国会図書館をはじめ、多くの方々が協力してくださったといいます。
三菱グループでは戦後新たに結集していく際に、「三綱領」のもと、世のなかに貢献する事業でない限りは長く発展していくことはできない、さらに事業活動以外の分野においても可能な限り社会貢献を果たしていくべきと考えました。
その社会貢献の重要な分野に、これまでの歴史で人間が発明・発見してきた知見や知識を伝える文献や史料を保存し、研究していく活動があります。人類文明の曙ともいえる4大文明から、西洋と東洋が互いに交流を続けながら育んできた世界の叡智、あるいは不易流行的な価値を共有していくことは社会にとっても非常に大切で有益なことです。


とくに東洋文庫は、中国をはじめとしたアジア地域についての書籍や資料の宝庫であり、東洋の人々の考えたことや感じたことだけでなく、西洋の人が東洋を訪れたときにどう感じ、何を持ち帰ったのかが分かる資料も残っています。そう考えると非常にダイナミックな知見や知識の宝庫であり、現代において新たに見つけ出せるものがあるかもしれません。現在、東洋文庫には東洋学の貴重な文献・史料が100万冊以上所蔵されており、世界でも五指に入る非常にレベルの高い研究図書館となっています。それが日本の地にあり、三菱グループゆかりの文化施設のなかにあるということは、非常に名誉なことであると同時に責任の重いことです。この社会に貢献できる叡智の集積としての東洋文庫を、今後とも三菱グループとして支援していきたいと考えます。

展示ではデジタルコンテンツを導入し
幅広いアプローチを心がけている

――普及展示の活動については、いかがでしょうか。

宮永ミュージアムは本館の建て替えをきっかけに2011年に開館しました。東洋文庫が所蔵する貴重な文献・史料を広く一般に公開するため、年3回、アジアの歴史文化に関するさまざまなテーマで展示を企画し、展示ごとに図録を発行しています。展示に際しては、読みやすい解説をはじめ、デジタルコンテンツの導入など、幅広いアプローチを心がけています。また東洋文庫へ足を運ぶきっかけをつくり、展示テーマへの理解を深めるため、企画展のテーマや東洋文庫の蔵書に関連した講演会、体験型のワークショップ、利用者のレクリエーションに資するイベントなどを企画・実施しています。


100周年事業の一環として、とくにデジタル化については東洋文庫全体でどんどん進めています。デジタル技術は、情報の伝達やその利用面において、中世に印刷技術が普及して以来の大きなインパクトを社会に与えています。情報共有はよりコンパクトかつ便利で速くなっています。世界には素晴らしい東洋学のライブラリーがあり、アメリカのハーバード燕京(イェンチン)研究所をはじめ、EU東洋学研究コンソーシアム、フランス極東学院、ドイツのマックス・プランク科学史研究所、ベトナムのハンノム研究院、台湾中央研究院などと提携していますが、今後さらにデータの共有が進んでいけば、データのクロスリファレンスが飛躍的に容易になり、さまざまなことが便利になっていくでしょう。デジタル化で情報共有だけでなく、分析も同時にできるようになっていく。そんな新しい舞台が整いつつあると考えています。

――2025年6月に理事長に就任されました。改めて抱負をお聞かせください。

宮永なぜ人は数を数えるのか。例えば重さを量るときに数字が必要ですが、人間は何かを伝えるときに数字や言葉で共有していきます。そして文字として意味を伝えはじめると、広く抽象的なイメージや概念が伝わるようになります。それが社会制度にまで広がっていく。そんなことを考えるのがもともと私は好きでした。 よく発明家の人は世の中に未だ存在しない何かを発明できることに喜びを感じますが、私の場合はなぜこんなことを考えつくのか、あるいは、どうしたらより効率的に伝えることができるのか、そのようなことを考えるのが好きです。
東洋文庫の理事長に就任して、そうした思いに浸る時間も少なくありません。歴史と共に積み重ねられた智慧や知識がさらなる新たな智慧や知識を生んでいく。そんな進化の過程を少し理屈っぽく考えています。今はAIと共存していくなかで、人類が飛躍していくための道具とどうつながっていけばいいのか、そんなことを考え、その方法を見つけていくことができれば、個人的には幸せだと思っています。 また、東洋文庫の方達には温故知新のもと、真の意味で新たな指針を見つけ、新しい時代にも適合する不易流行の考えに基づいたさまざまな価値を探し出してほしい。そうした活動ができるようサポートしていきたいと思っています。

――ミュージアムが休館中に取り組んでいることがあれば教えてください。

宮永リニューアル・オープン以降の展示企画の準備のほか、100周年記念事業も継続しています。例えば、貴重書の複製やデジタルコンテンツの制作などです。貴重書の複製は一般的な人気の高い資料を開館時に見ることができなかったという利用者の声を受け、公開と保存の両立を目的として実施しています。
デジタルコンテンツは、東洋文庫所蔵の古地図を対象としてデジタルデータの活用によって細部の見づらさを解消し、見どころを分かりやすく示すことを目的としています。これらはリニューアル時にミュージアムで公開することを想定しています。
対外的には、東洋文庫や岩崎 久彌に関連したワークショップを実施しています。また、ホームページやSNSの更新、メールマガジンの配信などによって積極的な情報発信を行っています。昨年ホームページをリューアルしたことにより、オンラインショップの利便性が高まったため、物理的に東洋文庫へ来られない方への学術情報提供(図録の販売等)を活発に行っています。

東洋文庫の活動を三菱グループが支えていることを誇りに
今後も責任を果たし努力していきたい

――リニューアルされる東洋文庫ですが、お分かりになっている今後の予定や見どころをお聞かせください。

宮永三菱金曜会から「東洋文庫百周年記念事業」の寄附金を得て、2011年の本館建て替え以来の大規模なプロジェクトがいくつか動いています。施設面でいえば、リニューアル工事によって、これまで以上に開放的な空間が正面入口に現れることで、多くの来場者にとって入りやすい、利用しやすい印象の施設になることを想定しています。
また館内には、ユニバーサルデザインのコンセプトで、子どもや車いす使用者などの多様な来館者に対する配慮(見やすさを考慮した展示ケースの新調、自動ドアの新設、余裕を持った動線の確保、ミュージアムショップの改修)など、ユーザーフレンドリーであること、そして資料の保存・公開環境の向上に努めています。
2026年1月21日にはリニューアル・オープン展の開幕を予定しています。モリソン文庫など、これまで親しんでいただいてきた見どころに加え、リニューアル後はさらにデザイン性と見やすさに優れた居心地のいい空間となります。また、展示においては読みやすい解説はもちろんのこと、デジタルコンテンツの導入などにより、実物とのシナジーを追求し、より多くの皆様に多彩な楽しみやサービスを提供できるように努めて参ります。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

宮永東洋文庫はこれからも世界に誇るべき東洋の智慧と知識の宝庫として、より新しい時代に合うように進化していきたいと考えています。これから社会は急激な進化を遂げていくでしょう。AIの利用が進むこれからのデジタル時代、さらにその先の世界においても常に振り返られるような情報と智慧や知識の宝庫であることには大きな価値があります。その活動を三菱グループが担っていることを誇りに思い、より一層の社会貢献を果たせるよう努力していきますので、皆さんにもぜひその貢献の輪の中に入って、応援していただければと思っています。


過去の記事

TOP