ライフスタイル企画

2024.01.18

冷え性をなんとかしたい!
体巡らす、漢方の知恵

寒さ際立つ日々の中で、どんな冷え対策をしていますか?冷えは万病のもと。冷え性を改善して、心も体も安らぐ生活を送りたいもの。冷え対策法と、おススメの漢方薬を、東洋医学研究所所長の武田 卓さんと、中屋彦十郎薬舗株式会社の中屋 征士郎さんに聞きました。

―まず基本から。なぜ冷えるのでしょうか。武田 卓さんに聞きます。

武田 卓さん(近畿大学病院提供)

武田さん(以下略):冷え性は思春期と更年期に多くみられ、自律神経の失調症状と関係が深いとされています。まずは、自律神経を整えること。3食バランスのとれた食事をとり、適度な運動を行って、血の巡りをよくすること。筋肉をつけること(脂肪よりも血流が多い)。座りすぎも控えてエレベーターを使わず階段にするとか、小さな心掛けを日々積み重ねるだけでもだいぶ違ってくるものです。入浴で体を温めることも大切です。

自分にとって刺激にならないぐらいの温度の湯船にゆったり入りましょう。この温度でないとダメ、というのはありません。大事なのは自分が「心地よい」と感じる気持ちよさ。好きなこと、好きな香り、好きなものを上手に利用して、ゆったりとした時間をつくりましょう。

―ストレス社会で自律神経が乱れる人も多いと思います。不妊治療をしてきた人が「もういい。子どもはいらない」と諦めた瞬間に子どもができた、という話も耳にしますが。

冷えと不妊の関係ですね。
うちの外来には、体外受精も顕微授精もすでに挑戦済み(しかし妊娠せず)という方も多くお見えになります。そんな方はものすごくストレスサインが高いので、ストレス緩和にアプローチする漢方をよく処方します。例えば、『 加味逍遙散( かみしょうようさん ) 』。血流改善にもいいです。気虚(気が足りなくなっている)状態の患者さんには、 六君子湯( りっくんしとう ) を処方して、体全体を元気にして整えるようにします。これまでそういう対策をされてこなかった方は、ストレスが緩和されることで、自律神経のバランスが整い妊娠する可能性が高まります

―それだけストレスが体に与える影響は大きいということですね。

その通りです。男性も同様です。冷えが気になって外来に来られる方は本当にお仕事がご多忙のご様子です。 四逆散( しぎゃくさん ) というストレス系に作用する漢方を処方します。 「四逆」とは、手足の冷えのことをいい、ストレスが原因で手足が冷える状態に使用します。また、痛みを和らげる働きもあります。実際に、ストレスがかかると体は痛くなってしまうことも多いのです。

診察室内(近畿大学病院提供)

私が理想としているのは、西洋医学と東洋医学の両面からのアプローチです。お互い補完しあいながら体を整える。例えば更年期障害でよくみられる「冷えのぼせ」(下半身は冷えるが上半身はほてるように熱くなる)は、ホルモン補充療法だけでは改善しないこともあります。巡りをよくする 加味逍遙散( かみしょうようさん ) などを併用するのも有効です。

季節に合わせて、漢方も衣替えしましょう

そして漢方も“衣替え”が必要です。 一年中、同じ漢方を飲むというのではなく、季節に合わせて漢方も少しずつ調整します。

例えば、 当帰四逆加呉茱萸生姜湯( とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう ) という温める作用の強い漢方がありますが、春・夏よりも秋・冬に増量することがあります。

また、今年はとくに寒暖差が大きいですから、気温の変化に体力が奪われぬように、漢方の力で体を整えます。慣れてきたら体調や目的に合わせて、漢方の種類も分量も調整するといいと思います。

例えばショウガ。 乾姜( かんきょう ) (蒸したあとに乾燥)と、生姜( しょうきょう ) (生の状態から乾燥)に分けられますが、乾姜の方が体を内側から温めるとされ、とくに腸の血流を増やす作用があります。飲むとピリッとしますが、冷えが気になる冬場はお腹を温めるので、おすすめです。ともに乾燥されているショウガですが、加熱の有無により作用が微妙に異なるのです。

私達人間も自然の一部ですから四季折々、旬のものを食べるということが養生ライフにつながります。冬の野菜(根菜類など)は体を温めるものですし、夏の野菜(トマトやキュウリなど)は体を冷やすとされています。冬場にトマトを食べる場合は焼いてもいいと思います。おいしいですしね。

放っておけない冷えとは

―注意が必要な冷えというのもあるのでしょうか。

放置すると危険な冷えもあります。

「うつ」による冷えです。全身の強い冷え症状を訴えるケース。 気になる場合は、メンタルヘルス専門医を受診するよう、すすめています。 手足の血管に動脈硬化が起きる「閉塞性動脈硬化症(略してASO)」も危険です。足が冷えて、ある程度の距離を歩くと痛くて歩けなくなる、という症状です。高齢者や喫煙者、糖尿病の人で、足がとにかく冷えて仕方がない、という方は、放っていてはいけません。
西洋医学的な治療(血管を広げる薬剤や外科的な血管再建など)が必要です。 冷えの裏に大事な疾患が潜んでいることもあるのです。

高齢者の場合は「サルコペニア」も心配です。
加齢により体全体の筋肉の量が低下して体が冷えてしまいます。放っておくとどんどん体と心が脆弱化していきますから、たんぱく質の多い食事と運動、そして漢方の力で体を元気にしていくとよいと思います。
2、3カ月ぐらいで元気になる場合が多いですよ。

―体の冷え対策は、西洋と東洋の両輪、ですね。

続いて、天正7年創業、漢方生薬の中屋彦十郎薬局(石川県金沢市)、漢方薬生薬認定薬剤師の中屋征士郎さんに、冷えに悩む人におすすめ漢方を聞きます。どんなものがあるのでしょうか。

中屋征士郎さん(本人提供)

中屋さん(以下略):冷えを改善するためには、体を温める漢方を使いながら、冷えの原因にアプローチする必要があります。 乾姜( かんきょう ) とか附子( ぶし ) などはあくまでも温めるためのもので、飲まなくなったら効きづらくなります。私がすすめるのは、芎帰調血飲第一加減( きゅうきちょうけついんだいいちかげん ) です。
もとは、出産直後の悪露(子宮から排出される分泌物)が出ているような、体が虚に落ちている状態のときに飲む薬として生まれたもので、珍しい漢方です。補血と合わせて気血の滞りをよくする効能があります。男性が飲んでも問題ありません。

冷えは血の巡りが悪くなることで起きますから、血府逐お丸( けっぷちくおがん ) もよいです。中年以降の高血圧傾向の方の頭痛や頭重、肩こりやのぼせ、動悸などに用いるものです。
腎機能を高めて疲れをとる海馬補腎丸( かいまほじんがん ) は、男性におすすめ。やる気が高まり冷えも改善、頻尿も改善します。これとあわせて霊鹿参( れいろくさん ) を飲まれる方もいらっしゃいます。霊鹿参は、胃腸が弱く疲れやすい方や、虚弱体質で抵抗力の衰えを感じている方、体が冷えていて、とくに手足や腰の冷えなどがある方の滋養強壮に有効とされています。

おそるべしマムシパワー

イチオシは、日本産のマムシです。
体を温める力、気力を上げる力が非常に優秀でビジネスパーソンにぜひ飲んでいただきたい。
敷居が高いかもしれませんが、マムシは無毒処理されていますし、古くから滋養・強壮剤として用いられてきたもので内服しても問題ございません。
集中力が高まり、仕事の効率も上がります。弊社でもマムシ粉末を販売していますが、鰹節のような味がします。はちみつとか水あめと練る食べ方ですと、匂いも気になりませんし、おいしくいただけます。おそるべし、マムシパワーをぜひ実感してほしいですね。

マムシ(イメージ)と、マムシ粉末(中屋彦十郎薬舗提供)

―自宅で簡単にできる、漢方ライフがあれば教えてください。

ショウガ陳皮茶はどうでしょうか。 まずショウガを蒸して、生姜湯にします。そこに陳皮( ちんぴ ) を入れて、また加熱します。
味も香りも豊かな、ショウガ陳皮茶の出来上がりです。
ショウガと陳皮の力で、気が巡り、ストレスも冷えも改善されます。
シナモン(桂皮)を加えると辛味が強くなり、より温まります。
日々の仕事終わりのリラックスのお供にいかがでしょうか。

ショウガは、弊社で乾姜( かんきょう ) 生姜( しょうきょう ) も刻みや粉末を販売していますが、スーパーで買った生ショウガを刻んで使ってもいいです。陳皮もミカンの皮で代用してもいいと思います。 時間に余裕があれば、ミカンの皮を乾燥させて干したものを使ってみましょう。弊社で販売している陳皮のなかでも「陳旧品」とあるのは、4年から6年寝かしています。

冷えは万病の元です。普段から体を冷やさないよう、心がけましょう。どこまで時間とコストをかけられるかは、皆さん次第ですが、知れば知るほど奥深い漢方の力を上手に取り入れて、心も体も健やかになる生活習慣を続けていただきたいですね。

薬局外観(中屋彦十郎薬舗提供)

取材協力

近畿大学 東洋医学研究所

中屋彦十郎薬局 (中屋彦十郎薬舗株式会社)
*冒頭のイメージ写真の提供元:近畿大学病院

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