『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』(愛称:オルカン)をはじめ多数のファンドが高い支持を集める三菱UFJアセットマネジメント。そのなかでも最も支持を集めているオルカンとは、全世界の株式に投資する指数連動のインデックス型投信だ。2024年1月に新しい少額投資非課税制度(NISA)が開始されて以降、新NISAの買い付けランキングで年初から最上位で推移、昨年には『日経トレンディ』(2024年12月号)の2024年ヒット商品ベスト30で、業界で初めて第1位を受賞した。
2025年8月には旅行ガイドブック『地球の歩き方』とコラボした『地球の歩き方 オルカン』が発売され、その意外なコラボレーションが話題となった。2025年10月には運用残高が8兆円を突破するなど個人投資家からの人気は高く、継続的に資金流入が続く歴史的なヒット商品となっている。
オルカンの人気は、長期投資という考え方を日本の個人投資家に広めたことが大きい。当然、金融商品であるから損をすることはある。かつては市場が下落へ向かうとすぐに売ってしまう個人投資家も多かったが、今は市場が下落しても数日で値が戻るなど、個人投資家が下落に過剰に反応する様子はあまり見られなくなった。
三菱UFJアセットマネジメントの役職員数は911名(2025年7月1日時点)。その大半が東京・汐留にある本社を拠点としており、海外にはロンドンにも拠点がある。本社は2フロアで手狭かと思いきや、オフィス勤務とリモートワークのハイブリッド勤務となっているため、オフィスはむしろリラックススペースなどが十分にとられ、余裕がある印象を受ける。オフィス内は一見静かだが、そのなかでファンドマネジャーらが日々、さまざまな情報をインプットしながら、インターネット上の市場で知能戦を繰り広げている。
これまで日本では、なかなか浸透しなかった資産運用の世界が大きく変わろうとしている。そんな資産運用業界の変革をけん引する三菱UFJアセットマネジメントでは、どんな人達が働いているのか。これから紹介していこう。
この仕事が好きなのは、
企業の中身を知ることに楽しみを感じているから
三菱UFJアセットマネジメントの友利 啓明さんは入社19年目。オルカンのような代表的な株価指数に連動させるファンドとは異なり、独自に企業調査を行い、投資判断を行うことでよりよい運用成果を目指す日本株アクティブファンドのファンドマネジャー兼アナリストを務めている。通常の運用会社であれば、忙しい仕事を兼務することは少ないが、同社では兼務が基本となっている(ただし、アナリストのレポーティング業務は行わない)。
「アナリストとファンドマネジャーが分かれていると、アナリストから聞いた二次情報によって投資判断をしなければなりませんが、自分で調べることと投資判断が直結しているので、差別化という点では大きなメリットだと思っています」
証券会社の「売り手」に所属するセルサイド・アナリスト(その反対は運用会社の「買い手」に属するバイサイド・アナリスト)は、業界におよそ300名超いるが、彼らと協力しながら日本株の銘柄リサーチを行ったり、企業に直接インタビューしてリサーチし、投資判断をしたりして、数百銘柄のなかから30~50銘柄に絞ってポートフォリオを作り運用していく。リサーチや運用を日々行いながら、お客さまやメディアにも日本株に関する情報発信を行っていくのがおもな仕事だ。聞いているだけでも忙しそうだが、時間はあるのだろうか。
「どこまで突き詰めるかは自分次第。会社には朝7~8時に出社し、夜中まで仕事をすることもあります」
驚くのはリサーチで1日1,000本ほどのアナリストレポートを読んでいることだ。
「必ず読むようにしています。昔はすべて読破するまでに5時間くらいかかりましたが、今では3時間に短縮できています。ただし、そこまでやっても勝てないことはたくさんあります。結局、自分はこの仕事が好き。定量的に評価することにやり甲斐を感じる。そうでないとなかなか続かない仕事かもしれません」
この仕事で大事なのは精神面のセルフコントロール。友利さんのお決まりは、リサーチをルーティン化すること。どんなにメンタルがブレようと、同じことをやり続ける。そうすれば、そのうち次につながる銘柄が見つかってくる。
「だからこそ、試練となるのは負けたときです。普通の仕事は努力と成果が正比例することが多いと思いますが、この仕事は同じやり方でやってもマーケットが変われば結果は異なってきます。この仕事ではマーケットの声を謙虚に聞く姿勢が大事だと考えています」
オフィスではチーム内で頻繁にコミュニケーションをとりながら、マネジメントの立場で後輩にアドバイスを送ったり、互いにアイデアを出し合ったりしていく。
「結局、この仕事が好きなのは、企業の中身を知ること自体に楽しみを感じているからです。オリジナリティのあるビジネスモデルを有する企業やカリスマの資質があるような経営者が登場してくると、うれしくなります。知る楽しみがこの仕事には沢山あると思います」
日本にウォーレン・バフェットのような投資家が登場する可能性はあるのか。友利さんに聞いてみた。
「バフェットは割安を軸に投資判断していますが、それは今では普通の投資手法のひとつです。ここから本当にリターンを出してレジェンドになれる人は、新しく投資手法を生み出せる人かもしれません。その観点では若い人のなかから、バフェットのような人材が将来的に生まれるかもしれませんね」
投機から投資の世界へ
日本に長期投資の考えを根付かせたい
笠井 洋昭さんは1989年に金融業界に入り、現在58歳になる。ファンドマネジャー歴は35年。業界の第一線での活躍を続けている。キャリアのなかで、マネジメント側になったこともあるが、やはりプレイヤーがいいと確信した。ただし、海外では笠井さんのような存在は珍しくない。
「それは日本と海外では投資スタイルが違うからだと思います。海外ではとくに長期投資のウェイトが高いのです。そうすると反射神経よりも経験値や判断力が重要になってきます。私から見れば日本は今も短期投資志向です。疲れるし、精神的にも長く持ちません」
笠井さんは現在、長期投資を基本に短期の上下を先物でリスクヘッジする絶対収益型のファンドを運用している。
「私が投資を始めた頃は、株式投資をやっているというと驚かれた時代。みんな損した記憶しかなくてバブル崩壊しか知りません。投資顧問という仕事も認知度が低いものでした。しかし今はまったくの別世界。投資をしている人、投資を仕事にしている人にとって、ものすごくいい環境だと思います」
笠井さんのキャリアがここまで長くなったのは、ファンドマネジャーの仕事が好きだからにほかならない。「当時は投資ではなく投機。30年かけて、やっと投資の世界になってきた」という。しかし、日本は欧米と比べて今も短期投資志向だという指摘に変わりはない。
「まだ半分くらいは投機だとみています。私が30年かけてやろうとしてきたのは、日本にちゃんとした投資を広めることです。私が尊敬するのはスコットランド流の長期投資。確かに思想的には日本でも長期投資は芽生えてきていますが、対トピックスで運用すれば、どうしても投機になってしまう。本当の長期投資をやっている人はまだひと握りだと思います」
笠井さんは、オーソドックスな手法で銘柄を選ぶため、負ける期間もある。「こういうスタイルだから」と説明しても、つらいことには変わりない。
「しかし、勝つのは大体このつらい時期のあと。そもそもみんなが株式投資から目を背けていた時代には、コンスタントに勝っていましたから」
メンタルケアの方法は、自分の思いを確認すること。そして自分が基本に忠実であるかどうかを確認することだ。リフレッシュの方法は、自然の中にいること。
「定年後もプライベートで運用は続けるでしょうね。そのほうがピュアにできると思います」
長尾 衛さんは入社11年目。同じくファンドマネジャー兼アナリストで、友利さんの後輩にあたる。おもに電機・機械などの業界を担当している。
ファンドマネジャーになったのは2023年。だいぶ慣れてきたが、ファンドマネジャーになってからは負けが続いて、苦しい時期も経験した。でも、やり続けるしかないと思った。
「淡々とやるようにしていますが、負けが続いた際には、やはりファンドに投資してくれた方々に申し訳ないと思いますし、ファンドマネジャーを続けられなくなる可能性も頭に浮かびます。その2つはプレッシャーとなって、いつもファンドマネジャーである自分に問い続けているところかもしれませんね」
仕事で大事なのは、モチベーションを保ち続けること。長尾さんの場合は、足下の成績に気をつけながら、将来的に勝ち続けられるファンドマネジャーになることが目標となっている。仕事に明け暮れる毎日だが、気分転換は机をきれいに整理すること。作業に集中するにはリモート勤務がいいという一方、やはりオフィスで対面で話すことも重要だと感じる。出社は7時30分くらい、プライベートの時間も株式投資について考えていることが多い。息抜きは長風呂だ。
「自分が信じてやってきた仕事がマーケットで報われたときに、やってきたことが間違いではなかったと感じることができます。まだ大きな成功体験は得られていませんが、ファンドマネジャーとして自分が納得できる成功を成し遂げたいと思っています」
長尾さんは現在、友利さんと同じく1,000本のレポートを読むよう努めている。聞けば、仕事のロールモデルにしているのは、身近な上司達。今は友利さんだ。
「よくも悪くもファンドマネジャーの仕事は自分の裁量で仕事ができることです。どのようなプロセスで、どんな銘柄を選ぶのか。チームで議論はしますが、最終的にはそれぞれのファンドマネジャーに任せられています。自分で判断できることがこの仕事の面白いところ。これからもファンドマネジャーとして活躍し、レジェンドといわれるような存在になりたいと思っています」。
友利 啓明
HIROAKI TOMORI
ファンドマネジャー兼アナリスト
笠井 洋昭
HIROAKI KASAI
ファンドマネジャー
長尾 衛
MAMORU NAGAO
ファンドマネジャー兼アナリスト