三菱鉱石輸送は、鉄鉱石や石炭、木材チップなどのバルク貨物(梱包されずに輸送される貨物)や自動車の輸送を行っている非上場会社で、日本郵船の子会社でもある。従業員数は約42名と少数先鋭ながら、日本の生命線である海運というビッグビジネスを担っている。
本社は丸の内の新国際ビルヂングにあり、令和に入って新しいビルが次々と建てられるなか、昭和時代からの古きよき落ち着いた雰囲気を醸し出しており、何とも好ましい。地下にはなじみ客が多そうな飲食店もあり、リーズナブルな価格で昭和生まれの世代にとっては、うれしさが込み上げてくる。
同社は、60年以上にわたる経験と知見に基づいて、安全で堪航性と荷役能力に優れた船舶を戦略的に建造し、船体の若返りと拡充に努めてきた。高品質な船舶を船舶管理とともに顧客に提供することで、傭船者のみならず荷主からも高い評価を得てきた。
同社の船隊は、パナマックス型・カムサマックス型撒積船を主力とし、ケープ型撒積船、自動車専用船、木材チップ船、セルフアンローダー型石炭専用船と多岐にわたり、アメリカ、ヨーロッパへの自動車輸送、世界各地の資源国から資源消費国である日本への石炭、鉄鉱石、木材チップ、穀物の輸送を担っている。
創業以来の主要荷主である日本製鉄向けには、ケープ型撒積貨物船を投入し、おもに豪州から石炭、鉄鉱石を同社の各製鉄所に輸送している。まさに同社は日本の基幹産業に貢献してきたといえる。また自社管理船だけでなく、他社所有船舶の船舶管理業務も請け負っており、付加価値の高い機能・サービスを提供している。
同社のオフィスに赴き、ここから世界へ向けて巨大な船舶を動かしていると考えると、なんだか不思議な気持ちになる。ひと口に海運といっても、やるべき業務は多岐にわたる。少数先鋭の同社では、どんな人達が、どのような思いを込めて働いているのだろうか。これから紹介していこう。
何もないことが、
船が安全に動いている証拠
安全・環境・品質保証グループ運航管理チームと船員戦略グループ船員管理チームの2つの部署を兼務している荒木 勇真さんは、入社11年目。
荒木さんの具体的な仕事は、運航計画に関する安全・法令順守確認、船舶からの報告の取りまとめ、本船により作成された荷役プランの確認、検査機関や官憲への対応、船員の教育、船員配乗の企画・実施と多岐にわたる。
「船は土日関係なく24時間動いていますので、比重が大きいのは運航管理になります。メールなどで報告を取りまとめ、社内だけでなく、港湾当局などの官憲との対応も支援しなければなりません。船内トラブルの初期対応調整もあり、気が抜けませんね」
荒木さんは2025年5月まで5年ほど船員として海上業務に従事しており、7月から陸上業務に復帰した。その間に社内のシステムが更新され、今は慣れるのが大変だという。そんな荒木さんの仕事のやり甲斐とは何だろうか。
「何もなければ、船が安全に動いている証拠なので、何もないようにすることがやり甲斐かもしれません。やはり世界の物流を支える一員として責任感を持てることがいちばんのやり甲斐ではないでしょうか」
荒木さんは1年前に一等航海士に昇格した。そのときには二等航海士のときとは異なる責任の大きさを感じたという。
「初めて荷役の責任者として自分で監督したときは緊張したものの、トラブルなく無事責任を果たすことができてうれしかったです。将来的には船長になりたいと思っています」
営業グループ営業チームの小林真白さんは2025年4月に入社したばかり。現在は研修期間が続くが、覚えることばかりで、どんな仕事も新鮮で面白いという。
「おもな仕事は本船、用船者、船舶代理店をつなぐことです。用船者のリクエストを本船に伝えて積揚げプランを考えてもらったり、船舶代理店からの動静情報を用船者に伝えたりするほか、ひとつの航海が終わると請求書の作成の仕事もあります。本船が危険な場所を航行するときには保険会社とも連絡をとりますね」
現在は運航船オペレーション業務のサブ担当の役割を果たしており、来年にはメイン担当になれるようにOJTで勉強中だという。
「大変なのは専門用語ですね。入社するまではまったく知らなかった言葉ばかり。船の中でトラブルが起こって連絡が来たときも、状況を説明することはできても、何を指すのか言葉が分からないこともあります。とにかく今は勉強に専念していますね」
そう語る小林さんはどんなときに仕事のやり甲斐を感じるのか。
「航海がひとつ終わったときに、やり切ったと感じます。また、用船者の方や代理店の方は普段メールや電話でしかやりとりができない分、直接お会いする機会があるととてもうれしいですし、このご縁を大切にしなければいけないと感じます。最近は室蘭に行きました。これから初の乗船研修があるので、とても楽しみにしています。将来は海運のオールラウンダーになりたいですね」
やりたいにようにやれる
やり甲斐のある仕事が多い
安全・環境・品質保証グループ技術支援チームの小故島 汐里さんは入社4年目。仕事の内容は本船の衛星通信サービス選定と導入、乗船中船員向けメンタルヘルスケア関連、買船時・売船時の衛星通信関係のActivate/Deactivate手配・管理、安全装備品の基準見直し、社内報作成・発行など。
「担当業務は多岐にわたりますが、そのほとんどは自分発信で進められる仕事です。上司からの指示を待つのではなく、自分でゼロから情報を収集・整理し、上司に「こんなことをやりたい」と提案して承認を得ながら、他部署を巻き込んでプロジェクトを推進することが求められます。その過程に大きなやり甲斐と面白さを感じています」
最近の仕事で印象に残っているのは、衛星通信サービス導入の仕事だ。
「商船向けの高速衛星通信サービスは、通常3年のコミットメント期間(縛り)があり、これが満了するまでほかのプランへの移行や他社サービスへの乗り換えができません。しかし、より当社のニーズに合ったサービスや安価で質の高いサービスにすぐに乗り換えができる状態にしておきたいという考えもあり、コミットメント期間がまったくないフレキシブルな契約を結ぶことができるプロバイダーを探しました。結果として、他社に先駆けてスペースXが提供する『Starlink』を導入。年間コストを抑えつつ全船に搭載するなど柔軟な対応が可能になり、船陸間のコミュニケーション円滑化や本船担当および現場からの情報共有の質と効率の向上、さらに本船乗組員のモチベーションアップにも大きく貢献することができました」
三菱鉱石輸送が船舶管理システムを刷新。
業務の効率化と高レベルな船の安全管理の実現を目指す
https://www.mitsubishi.com/ja/profile/csr/mpac/monthly/topics/2025/09/3.html
小故島さんは、どんな業務であれ、安全運航と船舶管理品質の向上という目的は社員の誰もが共有していると話す。
そんな小故島さんは、将来は人事・総務の分野で経験を積み、社員一人ひとりが自社に誇りを持ち、安心して働ける魅力的な職場づくりに貢献していきたいと話していた。
船舶管理グループ・Project Fleetチームの中田 紘凌さんは入社9年目。現在は、船舶管理として、部品・技師や検査官の手配をはじめ、整備やドックプランの計画、定期的な訪船などの業務に従事している。
「具体的には、各船の監督として、船の状態を常に把握しながら、必要に応じて整備の指示を出したり、部品や技師の手配をしたりしています。さらに、定期的な造船所整備に向けての準備もありますし、本船でトラブルが起きたときにはメーカーに問い合わせて対応策を相談したり、必要に応じて調整を行うことも大事な仕事ですね。」
造船所での整備では2~3週間にわたり現場に張りついて工事の進捗状況を確認します。メーカーとのやり取りもあり、エンジンやレーダー、航海計器などのメーカーと直接やり取りしたりすることも多い。中田さんは、そんな仕事のどんなところにやり甲斐を感じているのだろうか。
「船は大きなトラブルがあったときでも、可能な限り運航をストップすることなく、対応しなければなりません。船を止めることなく、解決できたときはやり甲斐を感じますね。また船の一大イベントとしてドックへの入渠工事があります。半年以上前から準備をしていかなくてはならず、入渠中も監督は現場に立ち、造船所と船員の間を取り持ちながら、工事を円滑に進めていかなくてはなりません。無事終えたときの達成感は何ものにも代えがたいものがあります」
中田さんは機関士出身。機器の知識に加え、法規や規制に関する理解も求められるなど大変な面もあるが、その分自分の成長を強く実感することができるという。
「巨大な船を扱う仕事はやはり面白いです。現場の機関士は自らの手で機械を分解・整備し、トラブルが発生しても自分達で対応します。そのなかで監督は、任される範囲が広く、自らの判断が大きく反映される重要な役割を担っています。そうした点に、この仕事のやり甲斐と魅力を感じています。将来はこれまでに培った技術や知識を次世代に継承していけるようなエンジニアを目指したいと考えています」。
荒木 勇真
YUMA ARAKI
安全・環境・品質保証グループ運航管理チーム
兼船員戦略グループ船員管理チーム
小林 真白
MASHIRO KOBAYASHI
営業グループ営業チーム
小故島 汐里
SHIORI OKOJIMA
安全・環境・品質保証グループ技術支援チーム
中田 紘凌
KORYO NAKATA
船舶管理グループ・Project Fleetチーム