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2023.12.07

ENEOSホールディングス

ENEOS CORPORATION

水素エネルギーの運搬や貯蔵問題の救世主!?ENEOSが開発した世界初の技術「Direct MCH®」

世界中の企業がグリーントランスフォーメーション(GX)に取り組む中、注目を集めているCO2フリー水素。CO2フリー水素は、利用時も製造過程においてもCO2を排出しない。

一方、水素は空気の14分の1と、非常に比重の軽いガス(気体)。そこで、CO2フリー水素を効率よく運ぶための手段として水素キャリア(水素貯蔵体)が重要となる。水素キャリアの一つである「メチルシクロヘキサン(MCH)」は、トルエンに水素を付加させて作る液体であり、水素ガスと比べると体積当たり500倍以上の水素を含んでいるため、効率よく水素を運ぶことができる。

水素サプライチェーンの構築を担当する、水素事業推進部 国内水素サプライチェーングループの石本 岳さんは次のように解説する。

「このMCHは、水素サプライチェーンの大きな鍵となっています。その理由の一つは、MCH輸送や水素の取り出しといった水素サプライチェーンの多くのプロセスが石油製品の製造プロセスと似ているため、既存の製油所のタンクや輸送船といったアセットを活用でき、初期投資を大幅に削減できる点が挙げられます。
もう一つの理由は、MCHは常温・常圧で安定している液体で取り扱いが容易であり、大量備蓄も可能であるため、エネルギーセキュリティの観点からも有望であるということです。」(石本さん)

水素製造コストを大幅に削減するカギとなる「Direct MCH®」

世界中で水素キャリアを使って水素を運ぶ取り組みが行われており、ENEOSはこのMCHを用いた水素サプライチェーン構築に力を入れている。ENEOSではMCHをさらに効率よく生成してコストを削減し、水素を安価に普及させるべく研究開発に励んでいる。その技術であり世界初の試みとして注目されているのが「Direct MCH®(ダイレクトMCH)」だ。Direct MCH®の開発を担当する中央技術研究所 先進技術研究所 水素キャリアグループの三好 康太さんは次のように語る。

「一般的に知られている再エネからMCHを作る方法は、まず再エネを用いて水を電気分解し、酸素と水素に分けます。ここで生成された水素を高圧のタンクなどに溜めておき、次にトルエンと水素を反応させてMCHを作るという2段階のプロセスが必要です。Direct MCH®は、水の電気分解とMCH製造、2段階のプロセスを1段階で行う技術です。すなわち水の電気分解を行う電解槽にトルエンを直接供給して電気化学反応をさせることで、MCHを作る。これにより水素ガスのタンクやMCH製造プラントが不要になり、製造工程が簡略化され、大幅なコストダウンができると見込んでいます」(三好さん)

この技術は、もともと三好さんが燃料電池の開発を担当していた入社3年目の時に、当時の上司から「燃料電池のデバイスにトルエンを直接入れて反応させたらMCHができるのではないか」というヒントを得て始めた研究だという。

「当時はなるべく不純物を入れずに純度の高い水素を作ることが常識だったので、そこにトルエンを混ぜるのは非常識と思えるアイデアでしたが、実験してみたらうまくいったので、2011年ごろからENEOS発の技術として研究所で本格的に取り組んでいくことになりました」(三好さん)

カーボンニュートラルの流れは石油会社にとってチャンスに

Direct MCH®の社会実装に向けて、再エネが豊富なオーストラリアに注目。2021年、Direct MCH®を利用してオーストラリアの太陽光由来のグリーンMCHを国内に輸入し、取り出した水素を燃料電池自動車(FCV)に充填する実証に世界で初めて成功した(ENEOS、東京大学、千代田化工建設、クイーンズランド工科大学の4者共同プロジェクト)。 2023年1月には、オーストラリアに電極面積3㎡の150kW電解槽、250kW太陽光設備を備えたグリーンMCH製造プラントが完成。6月にはこのプラントで製造したMCHを日本に輸送して水素を取り出し、国内の水素ステーションで燃料電池バスに充填して公道を走らせることにも成功している。今後は商用最小単位となるメガワット級の大型電解槽開発およびプロセス開発を実施し、社会実装を目指す。

「水素社会を実現するためには、お客様に『水素を使いたい』と思っていただけるような価格にすることは避けて通れません。Direct MCH®はチャレンジングな技術ではありますが、大規模かつ安全かつ効率的に水素を運び、安価な水素をお客様にお届けする上で重要な役割を果たすものだと考えています。石油製品は今でもエネルギー・素材分野などにおいて重要な役割を果たしており、私自身、水素事業推進部に異動になるまでは石油製品を作っていました。カーボンニュートラルの流れは石油会社にとってある意味逆境とも言えるかもしれませんが、石油製品製造のノウハウを最大限活用して、カーボンニュートラルなエネルギー・素材を供給する主要なプレーヤーになるチャンスでもあると捉え、今後、ENEOS発の技術を通して水素がより身近なものになればと考えています」(石本さん)

石本さん、三好さんとも「ENEOSだけではできないことがたくさんありますので、各社の技術を結集して、全体で前に進んでいきたい」と声を揃える。ENEOSはDirect MCH®を活用し、CO2フリー水素を製造、輸送、利用するサプライチェーンを構築することで、日本のカーボンニュートラル社会の実現に貢献していく。

本研究開発の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業/大規模水素サプライチェーンの構築/革新的な液化、水素化、脱水素技術の開発/直接MCH電解合成(Direct MCH)技術開発として実施しております。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

石本 岳   TAKERU ISHIMOTO

水素事業推進部 国内水素サプライチェーングループ

インタビュアー写真

三好 康太   KOTA MIYOSHI

中央技術研究所 先進技術研究所 水素キャリアグループ

ENEOS株式会社

東京都千代田区大手町1-1-2
1888年設立。ENEOSグループは「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」との両立に向け挑戦。世界と時代の変化にスピーディーかつ柔軟に対応しながら、エネルギー・資源・素材の安定供給という使命のもと、化石燃料からのエネルギー転換を推進し、脱炭素・循環型社会の形成に貢献し、企業価値の最大化を目指す。ENEOSはその中核となるエネルギー事業を担っている。

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