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2024.02.01

大日本塗料

Dai Nippon Toryo Company, Limited

大日本塗料がライフサイエンス分野に進出!?
世界初の「細胞外小胞用イムノクロマトキット」を発売した理由

大日本塗料は、細胞から分泌される粒子「細胞外小胞(EVs)」を検出できる、世界初の試験研究用イムノクロマトキット「細胞外小胞用イムノクロマトキット Exorapid-qIC(CD9)」を2023年7月から発売した。

イムノクロマトキットとは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの診断キットでよく見かける、検体を滴下したあと判定ラインの発色の有無によって確認できる検査キットをさす。なぜ、塗料会社である大日本塗料がこのようなライフサイエンス分野の商品を発売したのだろうか。これには、大日本塗料のナノ粒子技術が大きく関わっている。

実は20年もの実績がある技術、「自分たちで作ってしまおう」

血液や尿などに含まれている細胞外小胞は、分泌元の細胞に関する情報を含むことから、研究対象として注目が高まっている。たとえば、がん細胞から分泌される細胞外小胞の研究が進めば、がんの早期診断につながると見られる。
この細胞外小胞研究を推進する「細胞外小胞用イムノクロマトキット Exorapid-qIC(CD9)」は、大日本塗料の「異方性貴金属ナノ粒子」の研究と株式会社島津製作所の「ライフサイエンス」の研究によって生まれた。
一般に、塗料は液体中で粒子を安定的に分散させるという技術を用いている。
「その技術を応用し、当社では、ディスク形状の金ナノ粒子(金ナノプレート)、銀ナノ粒子(銀ナノプレート)など異方性(球状以外の形状)の貴金属ナノ粒子を安定的に合成する技術を20年ほど研究してきたのです」と語るのは、大日本塗料 スペシャリティ事業部 機能材開発グループの宗 芳和さんと、チームリーダーの宮澤 雄太さんだ。

「当初は、ディスプレイから発せられる赤外線をカットするコーティング材料として異方性粒子を開発しました。この技術を別の用途に使えないかと考えたときに、ライフサイエンス分野に市場がありそうだとわかったんです。イムノクロマト法によって判定ラインを発色させるには金属ナノ粒子が広く使用されておりました。しかし、カラーバリエーションが少なく複数のウイルスを同時に検査しようとすると検査結果が見づらいという課題があることが分かりました。当社は塗料会社ですので、マルチカラーの検査キットの開発にお役に立てると舵切りをし、ライフサイエンス分野への参画を図ってきました」(宮澤さん)

2015年からは展示会にも出展し、この技術を診断薬メーカーに向けて紹介してきた。だが、そのたびに「製品として成熟したものを採用したい」という意見を受けたという。

「検査となるとやはり信頼が重要なため、『採用実績』を重視するメーカーが多く、最初の一社の採用が獲得できませんでした。それなら自分たちで検査キットを作った方が早いのではないか、という構想が生まれ始めたのが2017年あたり。そのタイミングで、兄弟会社の島津製作所がこの技術に注目し、そこからのつながりで島津製作所と共同開発することになりました」(宮澤さん)

宮澤さんは島津製作所に出向する形で島津製作所が入居する研究施設に駐在。がん細胞から分泌される細胞外小胞によるがん診断の研究を目の当たりにした。

「細胞外小胞の検出実験は費用と時間がかかり、1,000万円以上の高価な装置が必要な場合もあり、実験時間に3~5時間と長い時間を要することもあります。研究の迅速性を高めていくにはどうしたらいいか。イムノクロマトによって安価で迅速に検査できるようになれば、需要が大きいのではないか、というところが商品開発のモチベーションになりました」(宮澤さん)

未形成市場へプロトタイピング戦略で参入

細胞外小胞の研究試薬の市場は今、年率30%を超えて成長している分野だ。大きな需要が見込めるものの、これまでの市場にない提案型の商品であり、不透明感が拭えない。それでも「1日も早く市場投入すること」に挑んだ。

「早期に試験販売することで、お客様からの生の声を吸収しながら改善、開発を進めていくプロトタイピング戦略が一番合うだろうと判断しました。早期発売を目指しましたが、もちろん品質的に間違いがないものを提供しなければなりません。その点には苦労し、実験が想定外となった場合も考慮して複数の実験を並行しながら走らせ、多くの実験を積み重ねました。また、我々は塗料会社ということもあり、製造設備がすべて揃っているわけではないので、一部は他社さんの力をお借りしています。そのための仕組み作りもこれまでとは違う点でした」(宮澤さん)

この開発を進めていく中でTOPPAN株式会社の特許技術も用いることになり、多くの協力と温情を受けながら研究開発を進めた。こうして完成した「細胞外小胞用イムノクロマトキット Exorapid-qIC(CD9)」は、従来の細胞外小胞の検出実験と違い、専用の装置は必要なく初期費用が抑えられるうえ、試験時間は45分程度に短縮できるようになった。扱いも簡単なため、細胞外小胞研究のスタートアップや簡易評価に最適だ。

2023年度は商品を広くPRするため学会発表やウェビナーなどを使って積極的に情報発信し、将来的には大きな市場へチャレンジしていく。10月に開催された日本細胞外小胞学会学術集会でもブース出展し、研究者の皆様へ情報発信した。今後もこの「細胞外小胞用イムノクロマトキット」をさらにブラッシュアップしていくことと並行し、貴金属ナノ粒子を使った新たな技術開発を続けていく。

「貴金属ナノ粒子は形状によって特定波長を吸収し、さまざまなカラーバリエーションを出すことができます。この技術を使いたいというお声も多数いただいております。また、反射防止フィルムなどの用途に展開している金属酸化物ナノ粒子の販売にも注力しています。こちらも10月に開催された「フィルムテックジャパン」に出展し、コーティング材として引き合いが増えています」(宮澤さん)

ものづくりは難しく苦労が多い。それでも「最初の一歩を踏み出すか踏み出さないかは勝敗の決め手になる。そこで支えとなるのが周囲のお力添えですので、三菱グループに限らず広くみなさんと一緒にネバーギブアップでがんばっていけたら」と、宮澤さんと宗さん。

「DNT(大日本塗料)は塗料だけじゃない!」をキャッチフレーズに、今後もさまざまな分野の新規事業に挑んでいく。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

宮澤 雄太   YUTA MIYAZAWA

スペシャリティ事業部 機能材開発グループ チームリーダー

インタビュアー写真

宗 芳和   YOSHIKAZU SO

スペシャリティ事業部 機能材開発グループ

大日本塗料株式会社

大阪府大阪市中央区南船場1-18-11 SRビル長堀
1929年設立。構造物・重防食用塗料や建材用塗料を中心とした総合塗料メーカー。構造物の防食塗料においては業界トップシェアを誇る。さらに「分析・物性研究」「塗料・防食理論研究」「機能性高分子材料の設計」「塗膜形成・塗装技術の研究」の各分野で研究を行うほか、帯電防止コーティング材、屈折率調整コーティング材、熱線吸収コーティング材など新規事業にも積極的に取り組む。

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