各社のトピックス

2024.02.15

三菱化工機

Mitsubishi Kakoki Kaisha, Ltd.

三菱化工機が世界初のろ過技術を開発、
フィルターが目詰まりすることなくイオンまでろ過できる秘密

電界フィルター®「Ele-FilTM」(エレフィル)

一般的にろ過の方法というと、たとえば家庭用浄水器などのようにろ材(フィルター)を通して「濾す」という行為が思い浮かぶ。フィルターはろ過を続けているうちに目詰まりを起こすので定期的に取り替えなければならない。こうしたろ過方法に世界初の画期的な技術:電界ろ過法が誕生した。電界を使うことで、フィルターを目詰まりさせることなく、イオンまでろ過できる、三菱化工機の電界フィルター®「Ele-FilTM」(エレフィル)だ。この技術について、開発に携わった技術開発・生産統括本部長で執行役員の酒見 伸一さん、研究開発部 技術顧問の大森 一樹さんが解説する。

水中の微粒子がマイナスの帯電をしていることに着目

微粒子をろ材で直接濾しとる伝統的な分離方法は、ろ材に微粒子が接触する「接触式ろ過法」である。

「接触式ろ過法の場合、ろ材の目が粗いと小さい粒子はろ液と一緒に漏れ出してしまいます。そのため、小さい粒子よりもさらに小さい孔のろ材を使う必要がありますが、目の細かいろ材を使うと、ろ過を続けているうちにケーク層という微粒子の堆積層ができ、ろ材の細孔が詰まって障害となり、ろ過速度が大幅に低下します。また、ろ液を圧力で押し出す必要があり、ろ過するために大きな駆動力が必要となります。これらは従来から課題となっていました」(大森さん)

この課題を解決するのが、三菱化工機の電界フィルター®『Ele-FilTM(エレフィル)』。以下同Ele-FilTMは、溶液中に分散している粒子の多くが微弱な電気を帯びていることに着目し開発された。

「水中に浮遊している微粒子の多くは表面がマイナスに帯電しています。そこで電極ろ板を設置し直流のマイナス電圧をかけることによってマイナスに帯電した電界バリアを形成。マイナス帯電の微粒子がマイナスの電極ろ板の電界バリアに近づくと、マイナス同士で大きな反発力が発生し、微粒子が浮き上がる現象、いわゆるクーロンの法則を利用するものです。そのためろ材が詰まることなく、ろ過できます。微粒子と電極ろ板が直接接触することを極力回避した非接触ろ過法、これがEle-Filのしくみです。これなら小さい駆動力でろ過速度を維持でき、ろ過面積あたりの処理量も大きくなります」(大森さん)

Ele-FilTMを使用したろ過法:

電気泳動※3と電極ろ板との反発作用で電極ろ板面から離れる荷電粒子に対する電気的作用力を利用してろ過を行います。荷電している粒子と電極ろ板は、電気的作用力によって非接触状態を維持し、ろ過精度が向上します。
※3電気泳動:溶液中の電荷をもった物質が電場(電界)のもとで移動する現象

これまで困難だった水性青色染料も、無色透明の水に!

電界ろ過法=非接触ろ過法は、従来の接触式のろ過法の課題であったろ過障害を解決し、ろ材の孔の大きさが50ナノメートル〜5 マイクロメートルのMF膜(Microfiltration membrane=精密ろ過膜)や、それよりもさらに小さいUF膜(Ultrafiltration membrane=限外ろ過膜)、さらにそれ以下のNF膜(Nanofiltration membrane=ナノろ過膜)、RO膜(逆浸透膜)まで広範囲に応用できる次世代のろ過技術だ。

※1マイクロメートルは1ミリの1/1000、1ナノメートルは1ミリの1/1000000

水浄化の分野では、大腸菌、赤痢菌といったバクテリア、A型肝炎やインフルエンザなどのウイルスやタンパク質の分離も可能。従来の膜ろ過では分離困難であった分子径1~3ナノメートルの水性染料系青インクも、Ele-Filでろ過すると濃縮した染料と無色透明なろ液に分けることができる。さらに、1ナノメートル以下のナトリウムイオンや硝酸イオンもろ過できる。

「従来の接触式ろ過法は、粒子の大きさに合わせて、何十種類もあるろ材や分離膜から適合するものを選び、分離システムを作らなければなりません。Ele-Filは、ろ過精度の調整を電極ろ板に印加する電界の強さで行うことができるので、電極ろ板に挟むろ材は3〜4種類ほどで、MF膜、UF膜、NF膜、RO膜の分野を幅広くカバーできます」(大森さん)

希少物質をEle-Filで分離させることで産業が変わる可能性も

Ele-Filは、藻類バイオマスや飲料・発酵・醸造産業、バイオ創薬などのライフサイエンス分野、電子・半導体材料分野、バイオプラスチック分野など、さまざまな産業での用途が見込まれている。

「この技術は液体に溶けこんでいる希少金属や貴重な栄養素、色素など多種多様な物質を効率よく分離・抽出できる可能性が高い。また、非接触ろ過法ですので、抽出された物質に対するダメージも最小限に出来、医薬の領域などでも役立つ可能性があります。我々はクロレラをはじめ微細藻類の研究を長年行ってきました。一般的に微細藻類から油を抽出しSAF(持続可能な航空燃料)や化石燃料代替に利用する事業は始まっていますが、実は藻類の中には油分の他に希少物質がたくさん含まれています。それらは塗料やプラスチック、医薬品、化粧品、甘味料、食品、調味料などの原料になりえます。それらをいかに省エネ省コストで取り出すことができるかが、分離・抽出された物質を利用した製品化のカギとなります。Ele-Filがその主役となる技術・製品となることを期待しています。」(酒見さん)

Ele-Filは社会実装に向けて、よりろ過効率を上げ多くの用途開発を実施。研究開発が続けられている。

「Ele-Filを適用するには、分離対象物が電気化学的特性を有していることが非常に重要。その特性を存分に生かすには解明がまだ不十分です。分離膜やろ材技術を基盤とした液中物質の分離プロセス工学を研究テーマとしている名古屋大学大学院工学研究科向井研究室さんとともに、Ele-Filのさらなる高性能化に向けた研究を推し進めています」(大森さん)

今後、Ele-Filを使った新たな産業の創出に期待が高まる。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

酒見 伸一  SHINICHI SAKEMI

技術開発・生産統括本部長
執行役員

インタビュアー写真

大森 一樹  KAZUKI OMORI

研究開発部 技術顧問

三菱化工機株式会社

神奈川県川崎市川崎区大川町2番1号
三菱各社の出資により化学工業用機械国産化のために化工機製作(株)として1935年創立。プラント・環境設備の建設・エンジニアリングと、各種単体機器の製作を軸に事業を展開。 製造機能を持ったエンジニアリング企業として、都市ガス、石油、水素、電力、化学、医薬、食品、半導体、バイオ、大気汚染防止、水処理、新エネルギーなどさまざまな分野で求められる機械・設備を製作・建設し、産業社会の発展を力強く後押しする。

過去の記事

TOP