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2024.03.21

三菱マテリアル

Mitsubishi Materials Corporation

豪雪にも負けず!三菱マテリアルが手がけてきた
「安比地熱発電所」が今月より運転開始

岩手県北部に位置する八幡平市安比地域は非常に雪深い。標高約1,130m、近くにスキー場もあり積雪量は4〜5mにも達する。その山の斜面にある安比地熱発電所は、2024年3月より運転を開始した。

三菱マテリアル株式会社と三菱ガス化学株式会社は、CO2排出量抑制と電力安定供給に貢献するため、2015年に「安比地熱株式会社」を共同設立し、この発電所の建設を進めてきた。菅野 雄幸さんは、三菱マテリアルで原子力関連業務を経て、2022年4月から安比地熱の社長に就任。三菱マテリアル 戦略本社 再生可能エネルギー事業部技術統括部 生産技術室 大畑 要さんは、2018年から安比地熱に参画してきた。2人にこの発電所と地熱発電に懸ける思いを聞いた。

雪による通行止めのなか、自分達で除雪をしながら発電所へ向かう

地熱発電は、火山や天然の噴気孔、硫気孔、温泉、変質岩などがある地熱地帯を掘削し、地中の地熱貯留層から蒸気を取り出し、タービンを回して発電する。地球内部の熱をエネルギー源とするため、化石燃料のように枯渇の心配がなく、CO2はほぼ排出されない。そして、昼夜を問わず安定した電力を長期にわたって供給できると期待されている。

安比地熱発電所建設までの経緯について菅野さんが説明する。

「2000〜2003年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による地熱開発促進調査が実施され、八幡平一帯に有望な地熱資源が存在するということが確認されました。その後、三菱マテリアルと三菱ガス化学が継続して追加調査を実施、採算性などの評価を行い、事業化の検討を進めてきました。2015年に合弁会社『安比地熱株式会社』を設立し、環境影響評価等を実施。2018年1月に確定通知を国から受領し、その後、電源開発株式会社も参画して3社で事業化し、2019年から建設工事に着手。そして、2024年3月より運転開始することができました」(菅野さん)

最初の調査から数えると実に20年以上にわたるプロジェクトである。
そこには数えきれないほどの苦労があった。とくに現場の頭を悩ませたのが雪である。冒頭でも触れた通り、安比地熱発電所がある地域は非常に雪深く、除雪車が通った1時間後にはもう通行できないほど積もることもある。一部の道路は冬期通行止めだ。建設工事から試運転まで雪との闘いが続いた。

「冬期通行止めになる区間からさらに14km先に発電所があります。2022年は大型の除雪車を導入し、ホワイトアウトを防止する防雪柵を設置しました。さらにこの冬は発電所の運転開始に向けて除雪員を増員。昼夜を問わず自分達で除雪しながら発電所までのアクセスを確保して、2交代、24時間体制で試運転、検査を行いました」(大畑さん)

約4年半の工事を経て、運転開始

「出力は14,900㎾ということで、火力や原子力などの大きな発電所に比べれば2桁ぐらい小さな設備容量ですが、安全確保を最優先に考え、CO2排出量抑制および電力安定供給に貢献していきたいと考えています。」(菅野さん)

豊富な経験と高い技術力を活かし、地熱発電事業を今後も牽引

そもそも地熱発電は初期コストが高い。地下約2,000mまで掘削し、地熱貯留層に溜まった蒸気を取り出さなければならないが、その工事に数億円かかる。地熱貯留層があることが分かっても、その場所に多くの亀裂がなければ蒸気は出てこない。「そのわずか数ミリ~数センチの亀裂を探し当てることが非常に難しい」と大畑さんは語る。風力発電であればその地域に例年どのくらいの風が吹くのか、太陽光発電であればどのくらい日光が差すのか調査時点である程度見当がつくが、地熱発電は掘削してみないと分からない。不確かであるがゆえリスクが大きいのだ。

それでも、三菱マテリアルは安定した再生可能エネルギー供給のため、地熱発電開発に挑み続ける。長年にわたる炭鉱や金属鉱山の開発を通じて培った豊富な経験と高い技術力を活かし、1974年に大沼地熱発電所(秋田県鹿角市)の運転を開始。以来、澄川地熱発電所※1(秋田県鹿角市、1995年運転開始)、山葵沢地熱発電所※2(秋田県湯沢市、2019年運転開始)の建設・操業に関わり、地熱発電事業を牽引してきた。
※1:発電は東北電力株式会社、蒸気供給は三菱マテリアルおよび三菱ガス化学
※2:電源開発、三菱マテリアル、三菱ガス化学と「湯沢地熱株式会社」を設立、同社が管理、運営を行っている

大沼地熱発電所

澄川地熱発電所

山葵沢地熱発電所(湯沢地熱㈱提供)

2021年からは、安比地熱発電所の西側に位置する菰ノ森地域(秋田県鹿角市)において、2022年からは安比地熱発電所の東側の安比川上流地域(岩手県八幡平市)において独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の助成金を活用した地熱資源量調査を開始。さらに、2022年、恵山地域(北海道函館市)の地熱調査・開発を手がける「合同会社はこだて恵山地熱※3」に出資。福島県吾妻・安達太良地域においても他社と共同で調査可能性の検討を継続している。
※3:株式会社レノバ、大和エナジー・インフラ株式会社、および三菱マテリアルによる共同出資

「三菱マテリアルでは中期経営戦略2030を発表し、2050年度までに当社の消費電力に匹敵する再エネ発電量を実現して実質的な再エネ電力自給率を100%にするという方針があります。ほかの地熱発電所の計画や地熱発電以外の風力発電なども含め、環境負荷低減を考慮したものづくりや再エネの開発・利用促進に取り組んでいきたいと考えています」(菅野さん)

日本の豊かな資源を有効に活用できる地熱発電。脱炭素社会のカギを握る重要な役割を担い、さらなる発展を目指していく。

INTERVIEWEE

インタビュアー写真

大畑 要  KANAME OHATA

戦略本社 再生可能エネルギー事業部技術統括部 生産技術室 室長補佐

インタビュアー写真

菅野 雄幸  YUKO KANNO

安比地熱株式会社 取締役社長

三菱マテリアル株式会社

東京都千代田区丸の内3-2-3
九十九商会の鉱業への進出をルーツとして1871年創業、1950年設立。「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」ことを私たちの目指す姿とし、銅を中心とした非鉄金属素材、付加価値の高い機能材料や製品を製造する非鉄金属メーカー。 高度なリサイクル技術による廃棄物の再資源化を通じ、「循環型社会構築」への貢献を目指しています。

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