
三菱ガス化学が医療用容器で医療関連業界を代表する賞を初受賞した。世界唯一の製品であるというOXYCAPT™(オキシキャプト)はどのように生まれ、評価されたのか。
2025年1月、Informa Markets社がパリで主催するPharmapack 2025において、三菱ガス化学のOXYCAPT™がPackaging Innovation Awardを初受賞した。
Pharmapackは1997年に立ち上げられた医薬品包装や医療機器に関するヨーロッパ最大のイベント。世界75カ国から専門家や企業関係者が参加し、初開催以来、欧州を主導する地位を築いてきた。三菱ガス化学は2012年から展示社として参加しており、今回初めての応募で受賞し、すでに多くの有識者、業界関係者から問い合わせが集まってきているという。
今回受賞したOXYCAPT™は、ガラスとプラスチックの特性を兼ね備えた3層構成の医薬用容器。内層と外層には医療業界で多数の採用実績があるシクロオレフィンポリマー(COP)を、中間層には同社で開発したガスバリア樹脂を用いており、優れた酸素・炭酸ガスバリア性、紫外線バリア性、無機物の低溶出性、低タンパク質吸着性、優れた極低温での破損耐性などを実現している。酸素と炭酸ガス透過度はCOP単層容器の20分の1程度であり、かつ、透明でありながら紫外線バリア性を有していることから、酸素や炭酸ガス、紫外線に敏感な薬剤の長期保管に寄与する。同社研究統括部ヘルステックソリューショングループ主席の鈴木 朋浩氏は次のように語る。
「このOXYCAPT™は当社が単独で開発したもので、今のところ競合製品はなく世界唯一の製品となっています」

高いガスバリア性を持つOXYCAPT™で、
細胞・遺伝子治療薬の長期的な安定を実現
そもそも従来、シリンジやバイアルといった医療用容器には、おもにガラス容器が使用されてきた。しかし、近年は新しいモダリティである細胞医療や遺伝子治療薬の開発が進み、冷凍保管やドライアイス輸送に耐え得る容器が求められており、従来のガラスや樹脂容器が使用できないケースがあった。高いガスバリア性を持つOXYCAPT™を使用することで、厳しい環境でも優れた特性を発揮し、細胞・遺伝子治療薬の長期的な安定を実現できる。それが今回の授賞理由となった。同ヘルステックソリューショングループの中谷 友哉氏は受賞した感想をこう語る。

OXYCAPT™の長所。
「私は初めての海外出張でパリまで行きましたが、そこで初受賞することになり、とてもうれしかったですね。授賞式も盛大で感動しました。先輩方が苦労を重ねてきた製品でもあり、仕事に対する情熱や取り組み方についても学ぶことができました」
鈴木氏も続ける。
「私は10年以上、このプロジェクトに関わってきました。これまでの苦労が本当に報われる思いがしました。これから世界唯一の製品として、医薬品の開発段階から参入していくことで、医療界に貢献していきたいと考えています」

授賞式の様子。
長くやっていれば、いつかは報われる
とにかくあきらめないことが大事
OXYCAPT™は10年以上前に開発がスタートし、数年前から研究開発部門での試験的な販売を行ってきた。
「もともと当社のMXナイロンという製品が飲料ボトルの中間層に使われており、ボトルの三層をつくる知見やノウハウを蓄積していました。この技術を違う分野にも活用できないかというところから、医療用容器の開発がスタートしました。Pharmapackには、まだ製品ができていないうちからコンセプトを発表し、業界へのアピールを重ねてきました」
こうした手法は同社としても初めての試み。同社では10年以上前に未来事業創出プロジェクトを発足させており、そのときに医療用容器の開発がテーマのひとつとして選ばれた。
「通常は既存製品から派生するものを狙っていくのですが、未着手の分野に踏み込んだもので、まさにフロンティアの分野を目指したのです。しかも、医療業界は非常に慎重な性質があり、なかなか新しいものを選んではくれません。もし製品に問題があれば、人の生死にかかわるからです。そこで試験的に販売を行うことで実績をつくっていきました。少人数で試行錯誤しながら、時間をかけて開発していったのです」
同社は研究開発を重視しており、他社と比べて長期の研究開発体制を敷き、育成してきた製品も多い。今後OXYCAPT™は、酸素や炭酸ガスに敏感なバイオ医薬品や遺伝子治療製品、細胞医療製品などでのディファクトスタンダードを目指し、拡販活動を図っていく。ほかにも展示会やカンファレンスへの出展、業界向け雑誌記事の投稿を増やし、最先端モダリティを開発中の日米欧の製薬会社での採用事例を拡大させていく方針だ。鈴木氏はこう述べる。
「長くやっていれば、いつかは報われる。研究が成功した要因も、最初に想定していた用途と異なる可能性が出てきて、それが評価されたことで、データを蓄積することができました。きっかけはあくまで偶発的なものです。とにかくあきらめないことが大事。研究開発では試行錯誤しながら臨機応変に対応していく。それが当社の強みでもあると考えています」。
INTERVIEWEES

鈴木 朋浩 TOMOHIRO SUZUKI
研究統括部
ヘルステックソリューショングループ
主席

中谷 友哉 TOMOYA NAKATANI
研究統括部
ヘルステックソリューショングループ
三菱ガス化学株式会社
東京都千代田区丸の内2-5-2三菱ビル
1918年に三菱製紙の出資により江戸川バリウム工業所が設立され、1962年に三菱江戸川化学に改称。1951年に設立された日本瓦斯化学工業と1971年に対等合併し、三菱瓦斯化学が発足した。1991年に表記社名を三菱ガス化学に変更。連結従業員数は7,918名(2024年3月末現在)。世界で唯一のメタノール総合メーカーであり、光学樹脂ポリマーなどで世界トップシェアを誇る。