系統用蓄電池事業への参入を発表した三菱倉庫。この事業は、三菱倉庫がイノベーションを起こすため、2023年に新設した社内公募制度「MLCイノベーションプログラム」の第1弾として、社員のアイデアが事業化されたものである。どのような事業か、発案した電力倉庫事業準備室長の新井 克治さんが解説する。
再生可能エネルギーも無駄なく利用できる系統用蓄電池事業
三菱倉庫の系統用蓄電池事業は、同社の所有地(一部借地)に大型の蓄電池を設置して電力系統に接続し、電力市場(卸電力市場・需給調整市場・容量市場)で取引を行い、収益を上げるというものである。「電力倉庫」と名付けられ、商標登録も行っている。
電力は需要と供給を常に一致させ、バランスをとる必要がある。このバランスが崩れると大規模停電につながる可能性があるため、電力会社では電力供給が上回った場合は「出力制御」を行っている。系統用蓄電池は、電力が余りやすい昼間などに電力を貯めておき、需要が増える夜間に放電する。電力の安定供給に役立つ。
天候によって発電量が大きく変動する太陽光や風力などの再生可能エネルギーにおいても、余った電力を貯めておけるので、発電した電力を無駄なく使うことができる。
「三菱倉庫の強みを存分に生かせる」とベテラン社員が発案
「電力倉庫」は、1992年入社のベテラン、新井克治さんが発案した。新井さんは全社員からアイデアを募る「MLCイノベーションプログラム」で採用され、約1年間の研修・研究開発期間を経て事業の実現を目指すことになった。どのような背景で、このアイデアが生まれたのだろうか。
「私は物流部門(倉庫)を経て、長らく不動産事業部に在籍していました。当社の不動産事業は、倉庫が建っていた場所を活用するケースが多いのですが、倉庫はいわゆる“駅前物件”が少ないため工夫を凝らした開発をしなければテナントを確保することができません。そこで先輩社員達は現在のデータセンターのようなビルを建設するというアイデアを打ち出しました。そういった事業に携わるなかで、データセンター業界では電力が不足しているという話を聞き、今回の企画につながりました」
データセンターに対応したビルを数多く手掛けてきたことからグループ会社には電気主任技術者をはじめとする電気のエキスパートが多数在籍するビル管理会社があり、大容量の電力設備運営の実績も強みに。さらに、物流事業や不動産事業を通じて社会インフラを担う業務を安全かつ確実に、長期間にわたって遂行してきたことも三菱倉庫ならではの強みだ。また、倉庫用地はもともとコンテナなどが出入りしやすいように道が広く、大型蓄電池の搬入に適しているという。三菱倉庫と系統用蓄電池事業、一見かけ離れているようで、実は「らしい」アイデアなのである。
物流、不動産に続く第3の事業に育てる
三菱倉庫の保有不動産を有効活用するとともに電力問題解決に貢献するこの事業。2027年度中には埼玉県の児玉電力倉庫(仮称)、2030年度中に神奈川県の港北電力倉庫(仮称)が稼働開始予定となっている。事業期間は各物件20年間(蓄電池の耐用期間相当)である。同社では物流、不動産に続く第3の事業に育てていくという。
新井さんは成功に自信を持つ。
「30年ほどさまざまな業務に携わってきて考えたのは、“直接的な需要の裏にあるニーズに応えることが成功の鍵”ということ。すなわち、倉庫事業は製品を製造するわけではありませんが、製品が流通するためにはなくてはなりません。不動産事業におけるデータセンターも、われわれはシステム会社ではなく、システム会社のお客さまを支えるインフラを担っています。電力倉庫も、発電するわけではありませんが電力問題の解決には不可欠なものと考えます」
児玉電力倉庫と港北電力倉庫の合計容量は約350MWhで、一般家庭約4万世帯の1日の使用量に相当する。さらに、2030年度までに400億円超を投じ、他県5カ所を加えて計7カ所に事業展開を計画しており、合計容量は約700MWhになる見込み。これは、一般家庭約8万世帯の1日分の電力使用量に相当する。
「面白い事業が始まった」と社員の関心も高い
実際に事業を進めていくために、全国各地の社有地を視察して回ったという新井さんは、「当社やグループ会社を含め他にも系統用蓄電池事業に適した場所がないか、改めて検討したいと考えています」と今後の展望を語る。さらに、この事業を通して社内の変化も肌で感じている。
「倉庫の現場で働いている社員から『面白い事業が始まりましたね』と激励を受けました。また、社内手続きのため法務部門や経理部門、保険部門など関係部署に事業の説明をすると、みんなすぐに理解し、『こうしたらよいのではないか』『この資料も参考になる』と、親身になって具体的なアドバイスをくれ、当社の社員は優秀で協力的だと実感しました。こうした人材も当社の強みだと改めて感じています。社内公募制度に関しては『ハードルが高い』と感じている社員も多いかもしれませんが、こうして実例を重ねることで『新しいことにどんどんチャレンジしよう』という動きが活発になるといいですね」
新規事業を通して改めて三菱倉庫の魅力に気づき、それを生かしつつ新たな風が吹くことを期待している新井さん。物流業界から電力業界に一石を投じるイノベーション、稼働が楽しみだ。
INTERVIEWEE
新井 克治 YOSHIHARU ARAI
三菱倉庫株式会社 電力倉庫事業準備室長
1887年設立。産業・社会の変革に合わせ事業をグローバルに拡大し、物流事業と不動産事業を通じて社会や人々の生活を支えている。パーパス「いつもを支える。いつかに挑む。」は、三菱倉庫がこれまでの歴史のなかで果たしてきた社会価値の創造をこれからも将来にわたって継続するために、挑戦し続ける会社の意思と決意を表現している。