 
							三菱ケミカルとENEOSが取り組む使用済みプラスチック油化事業に向けて、三菱ケミカル茨城事業所にケミカルリサイクル設備が完成し、サーキュラーエコノミーの推進を加速させている。
2021年7月より三菱ケミカルとENEOSが共同で建設を進めてきた、使用済みプラスチックのケミカルリサイクル設備が三菱ケミカル茨城事業所に完成し、竣工式を開催した。
商業ベースでは国内最大規模となる年間2万tの処理能力を備えたケミカルリサイクル設備で、今後使用済みプラスチックの油化事業を本格化させていく。現在、使用済みプラスチックは国内だけでも900万tあるといわれており、本取り組みは循環型社会への転換に貢献していく狙いがある。
この設備は、外部から調達した使用済みプラスチックを、英国のMura Technology 社の超臨界水熱分解技術によって化学的に分解する油化処理を行う。超臨界水熱分解技術とは、 超臨界状態(高温・高圧)の水を溶媒としてプラスチックの分解を行う技術で、国内初の取り組みとなる。超臨界水熱分解技術では熱を均一に加えることができるため、過分解によるガスの発生や局所加熱による炭化物の発生を防ぎ、高い収率を実現できる。また、加熱ムラが少なく、全体の加熱温度を下げられることから、エネルギー効率がいいのも特徴である。
							製造されたリサイクル生成油は、石油精製設備やナフサクラッカーの原料として使用される。石油製品や各種化学品・プラスチックへの再製品化を通じて、サーキュラーエコノミーの実現を図っていく。また、同設備は持続可能な製品の国際的な認証制度のひとつであるISCC PLUS認証の取得も完了している。
 
							プラスチック油化事業のサプライチェーン概念図。
                              両社の事業所が隣り合う縁で
生まれたケミカルリサイクル
                            
                        両社は茨城県の鹿島臨海工業地帯において、三菱ケミカルは化学プラント、ENEOSは製油所(鹿島石油)を運営している。場所も隣接しているため、もともと50年以上の長い関係性があった。三菱ケミカル ベーシックマテリアルズ&ポリマーズビジネスグループ戦略企画本部CN・CE戦略部CN・CE事業グループの瀧野 翔さんは次のように語る。
「同じ三菱グループに属していますが、ENEOSさんとはコンビナート設立の経緯から場所が隣り合っている縁や、互いの事業も石油精製と石油化学で密接に関係しているということもあり、これまで協力関係を深めてきました。両社が共同で取り組むケミカルリサイクル事業は、今回が初めてとなります。設備建設を共同し、互いに必要な留分を分け合っていく取り組みは、両社の関係性を背景にして私達だからこそ実現できるものだと考えています」
 
							ケミカルリサイクルプラント(三菱ケミカル茨城事業所)。
今回の取り組みは、従来の設備と新たな技術を融合させたもので、新設のケミカルリサイクルプラント以外はできる限り既存の設備を活用している。リサイクル生成油だけでは市場に提供することはできず、石油製品や各種化学品・プラスチックに再製品化していく必要がある。しかし、仮にこの再製品化の設備に追加の建設コストがかかれば、さらにそのコストが製品に上乗せされてしまう。ENEOS 基礎化学品企画部基礎化学品企画グループの児嶋 一さんもこう話す。
							   「もともと循環型社会の形成を目的としており、実現するためには今ある技術やリサイクルの仕組みをうまく活用しながら環境負荷をできるだけ抑え、循環型社会に向けた社会的ニーズに応えるプラントを建設して行くことが重要であると考えています。」
                               使用済みプラスチックを
新品同様にリサイクルできる
                            
                         
							プラスチック油化ケミカルリサイクル。
今回の取り組みの大きな特徴は、異なる種類の使用済みプラスチックが混ざっていても原料として使用可能であることや、リサイクルによって、新品同様のプラスチックができることだ。瀧野さんが説明する。
「たとえば、一般的なペットボトルのリサイクルでは回収後、キャップとラベルを取り、PET樹脂以外を取り除きます。その後、粉々にしてフレークの状態にして、もう一度成型するなど、マテリアルリサイクルにおいては完全な分別が要求されています。またペットボトル以外のリサイクルを見ると、同じ製品に戻すための品質維持が難しいため、色に配慮が必要ない公園のベンチやハンガーなどに再利用される場合も多いです。 加えて、一般的なマテリアルリサイクル由来のプラスチックは、安全・衛生上の理由から食品包装容器の食品接触面に使用することができません。一方、今回完成したプラントでは、異なる種類の使用済みプラスチックが混ざっていてもいいことや、 新品同様の品質でリサイクルすることができるなどのメリットがあり、これまでリサイクル材を使用できなかったさまざまな分野において利用が広がる可能性があります」 児嶋さんも続ける。
「石油精製と石油化学それぞれの知見やノウハウが相互に活用されれば、課題解決が進み、将来的には、経済合理性や市場形成の進展に応じて、ケミカルリサイクル由来のプラスチックが選択肢として広がる可能性があると見ています」
							三菱ケミカルとENEOSが共同で推進する使用済みプラスチックを油化するケミカルリサイクルは今後どのようなインパクトを社会にもたらすのだろうか。
「ケミカルリサイクルはまだまだ認知度が低く、一般の方にももっと広く知っていただくことが必要です。リサイクルごとの違いを知っていただき、循環型社会の促進にともに協力していければと考えています」(児嶋さん)
							「プラスチックごみを捨てたくないという社会の意識は高まっていると思います。資源として再利用することは私達の使命だと考えています」(瀧野さん)
INTERVIEWEES
 
								瀧野 翔 SHO TAKINO
                                    三菱ケミカル
									ベーシックマテリアルズ&ポリマーズビジネスグループ
									戦略企画本部
									CN・CE戦略部CN・CE事業グループ
									マネジャー 
                                
 
								児嶋 一 HAJIME KOJIMA
                                    ENEOS
									基礎化学品企画部
									基礎化学品企画グループ
                                
三菱ケミカル 東京都千代田区丸の内1-1-1パレスビル
ENEOS 東京都千代田区大手町1-1-2
ENEOSは、全国約12,000ヵ所のサービスステーションネットワークを持つ「ENEOS」ブランドを展開。また、日本の各地にある製油所や製造所において生産される石油製品、石油化学製品の販売のほか、水素や合成燃料などのエネルギートランジションに向けた事業も展開している。ENEOSグループは、「今日のあたり前を支え、明日のあたり前をリードする」という決意のもと、「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」の両立に向け挑戦する。
 
								 
								 
								