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2025.12.11

三菱総合研究所

Mitsubishi Research Institute, Inc.

三菱総研が「イノベーションによる解決が期待される社会課題リスト2025」を公開中
DE&I領域を新設し、さらなる課題解決へ向け気運醸成を図る。

三菱総合研究所(MRI)が運営する「未来共創イニシアティブ」の課題設定として生まれた「社会課題リスト」。産学官で共有されることで、社会課題解決の裾野の拡大を狙う。

現在、三菱総合研究所(MRI)が公開している「イノベーションによる解決が期待される社会課題リスト2025(以下、社会課題リスト)」。これまでリストでは「エネルギー・環境」「水・食料」「モビリティ」「防災・インフラ」「ウェルネス」「教育・人材育成」など6領域に分けられていたが、今年から「水・食料」を「食農」に、「防災・インフラ」を「レジリエンス」へと拡大し、新たに「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)」を加えることで計7領域30テーマへと拡大。企業が社会課題を自分事として捉えられるよう、既存領域やテーマの再設定を通して、さらなる気運醸成を図っている。

新領域DE&Iを含む全7領域が目指す社会。

「社会課題リスト2025」では、イノベーションとビジネスにより解決できると考えられる社会問題に関して、「地球」「社会」「ヒト」の観点から昨今の社会情勢などをふまえて既存6領域を再整理。テーマの見直しや入れ替え、新しいテーマを追加し7領域とした。また、ビジュアル・アブストラクトの手法を取り入れ、「社会問題>社会課題>解決の糸口」の全体像をイラストで可視化している。さらに現在、存在感を増している「サイバー空間」も重要テーマのひとつと捉え、サイバーセキュリティ、ELSI(ethical, legal and social implications:倫理的・法的・社会的課題)などを取り上げたコラムも掲載している。同社主席研究員の八巻 心太郎氏が語る。

「網羅的に社会課題をまとめたリストは意外に世の中に少ないように思います。社会課題リストは専門書ではなく、実際にこうした課題があるということを提示するメニュー表だと捉えて活用いただければと考えています」

新領域DE&Iのビジュアル・アブストラクト。

「100億人が100歳まで豊かに暮らせる
持続可能な社会」の実現がゴール

「社会課題リスト」は2017年の初版発刊以降、国内外の社会・経済の潮流、技術動向などをふまえ、変化する社会問題を継続的に捉えるために毎年見直し、改訂作業を行っている。社会課題解決に資する新規事業の探索や社会課題について議論、考察する際の参考情報として、官公庁や企業の経営層、学校・団体でも活用されている。

MRIでは、社会課題をオープンイノベーションとビジネスで解決するための共創活動を推進するプラットフォーム「未来共創イニシアティブ」(Initiative for Co-creating the Future=ICF)を運営しており、「社会課題リスト」は、ICFの活動の起点となる重要な社会課題を抽出・分析・整理し、解説しているものになる。
「これは、あくまで世の中の社会課題を客観的に捉え、皆さんと共有していく目的で始められたものになります。今では官公庁や企業での認知度も高まり、リストをもとに進めているビジネステーマもあります」(八巻氏)

ICFが始動したのは2021年4月。MRIが2010年に設立したプラチナ社会研究会、および2017年に設立した未来共創イノベーションネットワーク(Innovation Network for Co-creating the Future=INCF)を統合する形で発足した。現在までに企業やスタートアップ、自治体、大学研究機関、官公庁など総計633法人(2025年10月現在)が参加。共創会員と一般会員から成る。
ICFのゴールは「100億人が100歳まで豊かに暮らせる持続可能な社会」の実現にある。イコールパートナー精神に基づく産学官協働エコシステムとして、多用な会員構成を背景に「知の統合」と「価値の共創」の場を目指している。おもな活動は、社会課題設定を起点に、上流から下流まで全領域をカバーし、課題設定からビジネス創出まで一貫性を重視したプログラムの企画・運用を行っている。
具体的な活動としては、ワークショップやプロジェクトを中心に、社会課題ディスカッション、ビジネスアクセラレーションプログラム、事業共創、連携研究会、社会実装などを行う。同社コンサルタントの渡邊 絢音氏はこう話す。
「仮に企業や大学に有用な技術があったとしても、世の中に簡単には伝わりません。イノベーションの種はあるけれど、事業に発展させるところが課題となっています。私達は種を具現化し、社会実装へ向けた環境づくりをサポートしていきたいと考えているのです」

ICF活動の全体像。

社会課題を自分事化するために
「社会課題リスト」を活用してほしい

2017年から刊行されている「社会課題リスト」は、初年度では多様な社会問題を分析・整理する手順と課題一覧を提示、翌年にはグローバルな観点を追加した。続いて、課題解決の糸口となる技術動向や規制動向、社会問題などを追加。最近ではコロナ禍、ウクライナ紛争などをふまえ、取り上げる社会問題をアップデートしてきた。また、未来の社会課題に対しては、バックキャスティングを加えた総合的なアプローチを行っている。

「リスト作りについて、もともと当社では官公庁の仕事を多く手掛けており、政策や規制の動向に知見があります。また、コンサルタントとして相談を聞く内容自体が社会課題とつながっており、より社会課題のニーズに沿ったリストになっていると考えています」(渡邊氏)。

実際、「社会課題リスト2025」の7領域30テーマについて、たとえば「エネルギー・環境」では、「再エネ導入加速により電力供給は不安定に」といった問題に対し、課題として「電力需給運用における柔軟性の確保」を挙げる。「食農」では「今後のESG対応を見据えたなかでの食料生産体制構築が不十分」に対し「食糧生産サプライチェーンの環境・社会リスクへの対応」、新設の「DE&I」では「職場の人材の多様性不足」に対し「属性にかかわらず個人を生かす環境整備」といった課題を挙げている。企業は課題を参考に、新たなビジネスやイノベーションにつなげられそうなヒントを得ることができる。

各領域における代表的な新テーマ例。

統合から今年で5年目を迎えたICF。多彩な会員を有し、ひとつの課題を多面的に分析すると同時に、解決策を考える引き出しの多さも重要な特徴となっている。世界に目を向ければ、社会問題の解決は一進一退を繰り返しており、問題の解決のためには、それ以上の課題が多く残る。ICFでは今後も社会課題リストのアップデートに努めていくという。

「会員以外の方でもダウンロードいただけます。多くの専門家と協力して作っていますので、読み物としても面白いですし、私も読みながら勉強になるなと感じています。事業戦略や新規事業を検討する際に、社会的ニーズを把握するためにもぜひ使っていただければと思っています」(渡邊氏)
「社会課題リストはあくまで入り口に過ぎませんが、皆さんが考えるきっかけになってほしい。ここならやれる、これはやらなければならない。まさに社会課題を「自分事化」するために、このリストを活用してほしい。そこに解決の種があると思っています」(八巻氏)。

社会課題リスト2025はこちらからダウンロードいただけます。
https://icf.mri.co.jp/research/research-389/

INTERVIEWEES

インタビュアー写真

八巻 心太郎  SHINTARO YAMAKI

CR部
未来共創グループ
主席研究員

インタビュアー写真

渡邊 絢音  AYANE WATANABE

CR部
未来共創グループ
ビジネスコンサルティング本部
イノベーション戦略コンサルティンググループ
コンサルタント

株式会社三菱総合研究所

東京都千代田区永田町2-10-3
1970年設立。シンクタンク・コンサルティングサービス、ITサービスを手掛ける。社員数(連結)は4,573名(2024年9月30日現在、単体1,202名)。大手シンクタンクの一角を占める。国内外の知名度は高い。特に官公庁に強く、研究分野は政策から科学技術、経済・金融など多岐にわたる。国内拠点は大阪、名古屋にあり、大阪・関西万博ではマスタープランを作成した。また、大学や各専門分野、国会議員などに多数の人材を輩出している。

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