メタノールから水素を作り出し、エネルギーとして使っていく。こうした技術を有する三菱ガス化学が環境循環型メタノール構想をもとに、新たなモデル構築にチャレンジする。
三菱ガス化学は、エネルギーとしての水素のニーズが高まるなか、同社のメタノール事業に関するバリューチェーンと技術・知見を活用することで、社会に水素ソリューションを提供することに注力している。
2025年2月には、メタノールを原料とした水素生成器を製造するスペインのMethanol Reformer社、先進的な技術開発をリードする米国のElement 1社の2社と水素ソリューションの開発・商業化に向けた提携に関する覚書を締結。2025年8月からは富士電機と共同で、メタノールを水素キャリアとする発電システムの実証に向けた検討を開始。水素燃料電池を幅広い地域・施設に向けて提供することを目指している。
メタノールは従来、天然ガスなど化石資源から生産されているが、再生可能エネルギーを組み合わせCO₂や廃棄物から生産することができる。素材、燃料の両面で将来のカーボンニュートラル化への道筋を備えた基幹物質として注目を集めている。
同社では、気候変動対策の取り組みの一環として、炭素資源の循環利用促進の観点からメタノールに注目。炭素の「Carbon」と、先駆者の意味をもつ「Pathfinder」から、「Carbopath™(カーボパス)」として2022年にブランド化し、「環境循環型メタノール構想」を推進している。水素キャリアとしての利用においては、自社の技術ベースと世界の最先端を組み合わせながら、事業モデルとして構築していくことを狙う。
CO₂や廃プラスチックなどをメタノールに変換する
環境循環型メタノール構想「Carbopath™」を推進
環境循環型メタノール構想「Carbopath™」。
そもそもメタノールはアルコールの一種。常温で無色透明の液体で工業的に幅広く取り扱われている物質だ。用途はプラスチックや合成繊維、自動車部品、建材(合板)など、身の回りの素材に幅広く使われている。燃料としても、旅館の食膳などで個々に並ぶ小鍋の下の燃料材や、BBQ用の木炭の火起こし助燃材といった形で使われている。
同社は従来のメタノールバリューチェーンのすべてを手がける世界唯一のメタノール総合メーカーであり、同社が運営に関与する生産拠点の年間生産能力は750万t以上におよぶ。サウジアラビア、ブルネイ、トリニダード・トバゴ、ベネズエラの世界4拠点での生産体制によるグローバルな供給体制を構築している。
メタノールバリューチェーン。
世界のメタノール需要はこの10年でほぼ倍増(現状で約1億t)しており、国内需要は150~170万t程度。今後は、船舶燃料用途や水素キャリアとしても期待されるため、さらにハイペースでの需要増加が見込まれる。同社では、1952年に日本で初めて自社技術による国産天然ガスからメタノールの製造を新潟工場で開始して以来、国内外で事業を拡大してきた。
メタノールの水素キャリア利用(Methanol to Hydrogen: MH)については1985年から事業化を進め、技術面においても自社プロセス・触媒技術をベースとしてきた。水素は、「はこぶ」「ためる」ことが難しく、同社ではMHの技術を生かし、長年にわたって水素を必要とする顧客に技術とメタノールを提供してきた経緯がある。同社グリーン・エネルギー&ケミカル事業部門C1ケミカル事業部カーボンニュートラルプロジェクトグループ課長の岸俊和さんはこう語る。
「水素製造技術として、当社ではメタノール改質型の水素製造プロセスを保有しています。原料のメタノール水溶液は、常温液体で輸送・取り扱いが水素と比較し容易で、体積当たりの運べる水素量も多いです。メタノール自体を環境循環型にしてCO₂をオフセットすることで、今ある水素製造技術をより拡張しようとしているのです」
近年の水素の使用事例としては、ファインケミカル、ファインセラミックス、エレクトロニクス(半導体)などにおける、高純度水素の需要に対応してきた実績がある。
自社だけでなく、他社の技術・製品とも連携し、
水素キャリアとしてメタノール普及を目指す
エネルギーとしての水素の役割に期待が寄せられるなか、社会実装のハードルが低い水素キャリアとしてのメタノールに対するニーズは高まっている。
とくに環境循環型メタノール(Carbopath™)は、メタノールを水素キャリアとして用いる際に課題となるCO₂排出の解決策となる。メタノールを環境循環型に置き換えることによって、水素利用における低炭素化を段階的に進めることができる。また、水素インフラを構築しなくても水素利用をすることが可能となり、燃料電池との組み合わせで電源供給設備としても適用することができる。すぐに使え、物流コストも低減できるメリットがあるのだ。岸さんも述べる。
「まずは定置式の電源として工場をはじめ、港湾、空港、データセンター、ショッピングモールのような商業施設など、電気を安定的に必要とする身近な施設に対しても、クリーンなエネルギーを提供していきたいと考えています。さらに、水素の熱(燃焼)利用にもつなげていくことを目指しています。産業ボイラーの燃料といった観点だけでなく、近年は水素焙煎コーヒーのような商品や水素グリラーや水素コンロなど、水素で調理するという業態が出てきています。常温液体で運びやすいメリットを生かして、そうしたサービスを提供する場所での水素需要に対しても、ご活用いただけるようにしていきたいと考えています」
同社では自社技術の利用だけでなく、他社の技術・製品とも連携し、水素キャリアとしてのメタノール普及を目指している。今後はトラックなどで搬入可能なユニット機の形で、水素利用の適用場面をより拡大していく考えだ。メタノール改質型の水素生成器の新機種を自社の新潟工場へも導入し、2026年夏以降に 実証運転を開始していく予定だ。こうした取り組みから、日本でのモデル開発を並行して進め、早期の市場投入を目指していく。岸さんがメッセージを送る。
三菱ガス化学の本社受付にも「Carbopath™」のロゴ入りメタノール二元燃料船の模型が飾られている。
「すでに三菱グループ内でもさまざまな会社と環境循環型メタノールの推進・取り組みとしてつながりを持たせてもらっています。最近では船舶燃料としてメタノールの実装も進んでいます。持続可能な社会への移行に向けて、すでに身近で使われているメタノールを基幹原料として資源循環の取り組みを加速していきたい。当社の「Carbopath™」は炭素循環を実現するため皆さまをつなぐプラットフォームです。ぜひ将来に向けてともに取り組みの輪を広げ、持続可能な社会の実現に貢献したいと思っています」
INTERVIEWEE
岸 俊和 TOSHIKAZU KISHI
グリーン・エネルギー&ケミカル事業部門
C1ケミカル事業部
カーボンニュートラルプロジェクトグループ
課長
三菱ガス化学株式会社
三菱江戸川化学(1918年創業)と日本瓦斯化学工業(1951年設立)が1971年に対等合併し、三菱瓦斯化学が設立された。1991年に表記社名を三菱ガス化学に変更。連結従業員数は8,146名(2025年3月末現在)。同社は日本の年間メタノール輸入量の6割程度を担う世界で唯一のメタノール総合メーカーであるほか、半導体材料のBT積層板や食品・工業向け脱酸素剤などで世界トップシェアを誇る。