三菱ふそうトラック・バスがEVトラックの普及に向け、多様な充電ソリューションを検討するため、「車両を停めるだけ」で充電可能な駐車中ワイヤレス充電の実証実験を実施した。
三菱ふそうトラック・バスは2024年末よりEV小型トラック「eCanter」を用いた駐車中ワイヤレス充電の実証試験を、電力機器メーカーのダイヘン、三菱総合研究所と共同で取り組んでいる。今回は実証準備を終えた新たな段階として2026年3月末から実証走行をスタートし、6月末までの約3カ月間の実証実験を実施した。
この実証は、環境省の「令和6年度 運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」で採択されたもの。検証内容をもとに商用EVの利用者が参照できる導入ガイドラインを発行し、ワイヤレス充電システムの社会実装を支援することを目的としている。
今回の実証実験では、名鉄NX運輸の実業務においてワイヤレス充電「eCanter」1台を運用し、事業所内で駐車中充電を行う。50~75kmの運用で夜間に6~8時間ほど充電する。検証ポイントとして、一つ目は設備の設置性・親和性、二つ目は操作や駐車の際のユーザー体験、三つ目はケーブルレスによる安全性・省力化を確認する。
実際の実証実験車両。
同社はワイヤレス充電技術の実運用環境における技術・運用上の課題抽出を目的としており、すでに「eCanter」を日常業務で28台運用している名鉄NX運輸の拠点のうち、名古屋市近郊の名鉄トラックターミナル中部にて、新たな充電方式が業務のなかで成立するかを検証し、現場での受け止め方や運用上の論点を整理する狙いがある。同社モビリティ・トランスフォーメーション本部 カスタマーサクセス&モビリティソリューションズ マネージャーの尾﨑 幹秀氏は次のように語る。
「研究所で実証に必要な技術検討を行いました。今回はお客さまの業務のなかに自然と溶け込んで作業ができるかどうかなど、物流施設との親和性ほか、ドライバーのルーティンワークに問題なくはまるかどうか。ケーブルレスによってどれだけプラスのメリットがあるのかなどのポイントを探っていきたいと考えています」
ワイヤレス充電システムは、
より柔軟な充電スペースの計画が可能に
世界中の「eCanter」。
「eCanter」は、同社が2017年に発売した日本初の量産EV小型トラック。温室効果ガスを排出せず、CO2削減に貢献するほか、静穏かつ低振動というEVトラックの特性により、都市内輸送・深夜早朝の輸送をより快適・低負荷で行える。2023年以降は日本だけでなく欧州31市場やオセアニア地域、インドネシアや台湾といったアジア地域、中東・南米など海外市場へも積極的な展開を進めている。
同社では「eCanter」の展開において車両のみならず、導入や継続使用のためのエコシステム開発にも力を入れている。そのなかでも充電ソリューションの多様化、利便性向上は大きなテーマのひとつだ。尾﨑氏も言う。
「EVであることにより、活用方法が限定的である側面があると認識しています。1回の充電で走れる距離が決まっているため、どこで充電するのか。あるいは、お客さまの用途に合わせた充電ソリューションがつくれるかどうかなどさまざまな側面から検証を行いました」
ワイヤレス充電は、従来の充電設備のようなケーブルを使わず、「車両を停めるだけ」で車載バッテリーを充電する技術。車両に受電コイルを装着し、車載バッテリーと接続、そのうえで、ワイヤレス充電システム内で発生させた電力を送電コイルから車両の受電コイルへ伝送することで、車両のバッテリーが充電される。
ワイヤレス充電システムの構成。出典:株式会社ダイヘン
ワイヤレス充電システムは、従来の充電設備と比較して、より柔軟な充電スペースの計画が可能となる。充電ケーブルの脱着の手間が省けることによる利便性の向上のほか、ケーブル管理が不要になることで安全性と業務効率の向上も見込まれる。同じくモビリティ・トランスフォーメーション本部 カスタマーサクセス&モビリティソリューションズの菊地 隆文氏もこう語る。
「トラックはお客さまによってさまざまな使い分けがあります。ひと口にトラックと言っても大小あり、バッテリーをどこに搭載するのかも意外に難しい。ほかにも充電コイルと送電コイルの位置を合わせるためにトラックを駐車する難しさなど、やってみて初めて分かることも少なくなく、ものづくりの大変さを実感しています。これからより現実的な運用上の課題やトラックのユースケースの課題など、今回の実証を通して、鮮明に抽出していきたいと考えています」
実証期間を通して、
今後の知見を獲得していく
同社では「FUSO eモビリティソリューションズ」によって、「eCanter」の導入・運用を包括的に支援しており、本実証もこの枠組みのなかで行う。多様な充電ソリューションの展開により、お客さまの柔軟な「eCanter」の運用につなげていく方針だ。
将来的にEVトラックを拡大するためには、バッテリーの容量(電力量)による走行距離が課題となる。EVであることに特別な配慮をせずに運行ルートを選べるようにするには、事業所充電のほか、経路充電、または充電速度や電力を自動で最適化するダイナミック充電など充電ソリューションの多様化と進化が不可欠となる。
「ワイヤレス充電の最終的なかたちは走行中の給電ですが、トラックの観点からいえば、ユースケースの濃淡もあり、EVのメリットをどのように出していけばいいのか。充電ソリューションを多様化していくことが現実的な解決策となるのかもしれません」(尾﨑氏)
乗用車、タクシー、バス、トラックとそれぞれの用途によって、車格や車体の構造などはかなり異なる。そのためワイヤレス充電といっても、それぞれのユースケースを見定めて、必要な機能や仕様を変えていかなければならない。現時点では、充電自体の検討や基本的な受容性の確認段階だが、今後はより具体的に充電のみならず、現場に必要な機能や仕様を加味していく必要がある。
「実証期間中、しっかり走り切って、今後の知見につながるような経験や知識を獲得していきたいと思っています」(菊地氏)
最後に尾﨑氏もこんなメッセージを送る。
「今回の実証は4社で協力して行いましたが、先端技術の次のステップにともに取り組んだ充実感は大きい。今後もパートナーシップによって連携しながら、新たな技術を世に出していきたいと考えています。新たなモビリティを生むには自動車メーカーの枠を超えた協業が欠かせません。三菱グループの一員として今後もさまざまなかたちで皆さまとご協力できればと思っています」。
INTERVIEWEE
尾﨑 幹秀 MIKIHIDE OZAKI
モビリティ・トランスフォーメーション本部
カスタマーサクセス&モビリティソリューションズ
マネージャー
菊地 隆文 TAKAFUMI KIKUCHI
モビリティ・トランスフォーメーション本部
カスタマーサクセス&モビリティソリューションズ
三菱ふそうトラック・バス株式会社
日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合によって設立された持株会社ARCHION(アーチオン)傘下の中核企業で、川崎市に本社を置く商用車メーカー。FUSOブランドのトラックやバス、産業用エンジンを世界約170の市場向けに開発・製造・販売している。日本初の量産型EV小型トラック「eCanter」による電動化、運転自動化では大型トラック「スーパーグレート」に国内商用車初のレベル2相当の高度運転支援技術を実装するなど先進技術の開発に積極的に取り組んでいる。